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びまん型胃がん、世界最大ゲノム解析から飲酒との関連を初めて発見-国がんほか

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2023年03月16日 AM11:11

びまん型胃がんは予後不良、発症要因は未解明

国立がん研究センターは3月14日、日本人胃がん症例697症例を含む総計1,457例の世界最大となる胃がんゲノム解析を行い、新たな治療標的として有望なものも含めこれまでで最大の75個のドライバー遺伝子を発見したと発表した。この研究は、同センター研究所がんゲノミクス研究分野の柴田龍弘分野長(兼 東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターゲノム医科学分野教授)、東京大学医科学研究所先端科学技術研究センター、東京大学、横浜市立大学、Duke-NUS Medical School Singaporeらの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Genetics」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

胃がんは、日本における罹患者数(2019年)と死亡数(2021年)がともに3位と上位に位置する対策が極めて重要ながんである。胃がんは病理組織学的には、大きく腸型(intestinal type)とびまん型(diffuse-type)に分類される。胃がんの治療は、内視鏡や手術による切除・細胞障害性抗がん剤治療に加えて、HER2といったがん遺伝子を標的とした分子標的治療薬やゲノム変異が多い症例(高度変異胃がん)に対する免疫チェックポイント阻害剤によって、年々予後は改善しているものの、スキルス胃がんに代表されるようなびまん型胃がんについてはいまだに予後が不良で、有効な治療法の開発が望まれている。

また胃がんの発生要因としては、ピロリ菌感染並びにEBウイルス感染が重要なリスク因子で、特にピロリ菌感染を契機とした慢性胃炎は発がんの温床となり、炎症に伴う再生性変化が腸型胃がんの発症と強く関連している。一方でびまん型胃がんについては発症要因については未解明であり、予防に向けた原因解明が強く期待されている。

世界最大の胃がんゲノム解析を実施

(ICGC-ARGO)では、大規模ながんゲノム解析によって、新たな治療薬や発がん要因の同定を進める研究が行われており、日本やアジアに多いがん(、肝臓がん、胆道がん)については、これまで日本の研究グループから多くの研究成果を発表している。

ICGC-ARGOにおける国際共同研究により、日本人胃がん症例697症例と、米国(442症例)、中国(217症例)、韓国(52症例)、シンガポール(49症例)における胃がんゲノムデータと合わせて総計1,457例となる世界最大の症例コホートを用いて全エクソン解読(1,271症例)並びに全ゲノム(172症例)解読、RNAシークエンス解析(895症例)解析を実施した。

びまん型胃がんの発症、飲酒に関連したゲノム異常から誘発

喫煙や紫外線などがんの発生要因は、細胞のDNAに特徴的な変異(変異シグネチャー)を起こすことが知られている。そのため、がん細胞に生じた変異シグネチャーを解析することで、そのがんの発生要因を推定することが可能である。今回の胃がんのゲノム解析においては、14種類の変異シグネチャーが同定され、中でもSBS16という変異シグネチャーは、・東アジア人種に多く、また男性、飲酒量、アルコールを代謝しにくい体質(分解能が弱いゲノム多型:ADH1B/ALDH2)と有意な相関を示した。さらにびまん型胃がんの発症において鍵となるドライバー遺伝子であるRHOA遺伝子の変異がSBS16で誘発されることが示され、飲酒に関連したゲノム異常がRHOAドライバー変異を誘発し、びまん型胃がんを発症することをゲノム解析から明らかにした。

胃がんドライバー遺伝子を75個発見、有望な治療標的も同定

今回の解析から、胃がんにおけるドライバー遺伝子を新規含め全部で75個発見した。これはこれまでの米国TCGAの報告である25個を大きく上回る結果である。何らかの治療法が知られているドライバー遺伝子を一つ以上持っている症例は全体の約25%(24.6%)に認められ、すでに胃がんに対して臨床で使用可能な治療薬がある症例は全体の約10%(9.6%)だった。治療標的としては、VEGFA、FGFR2キナーゼ、PD-L1/L2といった免疫チェックポイント分子のゲノム異常(3’UTR構造異常や遺伝子増幅)、NRG1/2やRETなど複数のキナーゼ融合遺伝子が同定でき、新たな治療標的として有望と考えられた。

胃がんにおけるスプライシング異常、がん抑制遺伝子TP53とCDH1で高頻度

最近注目されているRNAスプライシング異常について、今回の大規模なゲノムデータと発現データを組み合わせることで、網羅的な解析を行った。その結果、胃がんにおけるスプライシング異常はがん抑制遺伝子であるTP53とCDH1に最も高頻度に起こっていることが明らかとなった。さらにびまん型胃がんにおけるCDH1のスプライシング異常が特定の部位に集中していることを見出し、びまん型胃がんの発症においてCDH1変異はドミナントネガティブ(優性阻害)として作用する可能性を明らかにした。

16個のドライバー異常が免疫状態と相関、免疫療法バイオマーカーとなる可能性

免疫細胞はがん抗原を認識し、サイトカインであるインターフェロンガンマを放出して、がん細胞を攻撃することが知られている。インターフェロンガンマの刺激はがん細胞上の受容体(インターフェロンガンマ受容体:INFGR1/2)とその下流シグナル分子(JAK1/2)によって伝達される。高度変異胃がんでは、HLA遺伝子やB2M遺伝子といったがん抗原提示に関わる分子、さらにはこうしたインターフェロンガンマ経路分子における機能喪失型変異やゲノム異常を70%以上の症例で認め、こうした症例では免疫チェックポイント阻害剤の効果が低い可能性が考えられた。さらに発現解析データを用いて腫瘍内における免疫細胞の量や活性化について評価した結果、HER2遺伝子増幅、KRAS変異、TP53変異、WNT経路異常といったドライバー遺伝子が低免疫活性状態(免疫療法が効きにくい可能性)と相関し、一方でPIK3CA変異やクロマチン制御分子(ARID1A、ARID2、BAP1など)異常が高免疫活性化状態(免疫活性が高い状態)と相関することを明らかにした。全部で16個のドライバー異常が免疫状態と相関しており、これらは胃がんに対する免疫治療における新たなゲノムバイオマーカーとなる可能性がある。

今回の研究によって、これまで発症要因が不明であった予後不良なびまん型胃がんについて飲酒並びにアルコール代謝関連酵素の遺伝子多型が重要な危険因子であることを初めて明らかにした。今後飲酒に関連するゲノム異常がどのように発生するのかを詳細に検討することで、びまん型胃がんの予防につなげていくことが期待される。また、びまん型胃がんを含め、日本人胃がんにおける治療標的となるドライバー遺伝子や免疫療法の予測因子となりうるゲノムバイオマーカーの全体像を解明した。「これらのデータは、今後日本人における胃がん治療法開発や予後改善に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。

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