薬剤耐性菌、ヒト-ペット双方向の伝播の実態は不明
大阪公立大学は3月14日、ペットとして飼育されているイヌから、コリスチンと第三世代セファロスポリン両方の抗生物質に耐性を示す大腸菌を国内で初めて発見したと発表した。この研究は、同大大学院獣医学研究科の安木真世准教授、嶋田照雅教授、鳩谷晋吾准教授らと、同大獣医学部附属獣医臨床センター(以下、獣医臨床センター)、大阪大学微生物病研究所の共同研究グループが行ったもの。研究成果は、「Veterinary Microbiology」に掲載されている。
画像はリリースより
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近年、抗生物質の不適切な使用などにより抗生物質が効かない細菌(薬剤耐性菌)が出現しており、対策を行わない場合、ヒトでは2050年にがんを抑えて死因1位になると予測されている。ヒトで注視されている指定耐性菌の1つにblaCTX遺伝子(CTX型βラクタマーゼ遺伝子)による第三世代セファロスポリン耐性大腸菌がある。この大腸菌は第三世代のセファロスポリン抗生物質が効かないため、治療にコリスチンが使用されているが、コリスチンの汎用に伴いコリスチン耐性大腸菌が出現した。特に、mcr遺伝子(可動性コリスチン耐性遺伝子)を持つプラスミドの出現は、細菌個体から細菌個体への耐性遺伝子の移動(水平伝播)を可能としており、現在では第三世代セファロスポリンとコリスチン両方の抗生物質に耐性を示す大腸菌の世界的拡大が問題となっている。
薬剤耐性菌はヒトだけで伝播されるものではなく、動物、動物由来食肉製品、そして周囲環境においても検出されているため、ワンヘルス(「ヒトの健康」「動物の健康」「環境の健全性」を一つの健康と捉え、一体的に守っていくという考え方)の観点から動物における対策が必須である。特に、イヌやネコを中心とするペットは、飼い主であるヒトと密接であること、近年薬剤耐性菌の報告が増加していることから、ヒトとペットにおける双方向の薬剤耐性菌の伝播が懸念されている。しかし、ペットにおける薬剤耐性菌の動向調査や詳細な解析に関する知見には限りがあり、ペットが持つ耐性菌の性状や宿主間伝播の実態には不明な点が多く残されている。
感染症疑いのイヌ428匹、ネコ74匹から分離された細菌687株を調査
研究グループは、2018年から獣医臨床センターと大阪大学微生物病研究所と連携し、ペット由来の薬剤耐性菌のゲノムレベルでの性状解析を行ってきた。今回、コリスチン耐性に焦点を当て、2018年~2022年に獣医臨床センターに来院した感染症疑いのイヌ428匹、ネコ74匹から分離された細菌687株を対象とした調査を行った。
mcr遺伝子+blaCTX遺伝子を持つ大腸菌、イヌとネコから1株ずつ発見
腸内細菌科細菌であった243菌株のうち、第三世代セファロスポリン耐性であることが確定した43菌株(大腸菌34株、肺炎桿菌9株)を、大阪大学微生物病研究所の次世代シーケンサーを用いて全ゲノムシーケンス解析を行った。その結果、2菌株は可動性コリスチン耐性mcr遺伝子と第三世代セファロスポリン耐性blaCTX遺伝子の両方をプラスミド上に保有することが明らかとなったため、さらに解析した。
イヌから分離された大腸菌1株は、コリスチンに耐性であること、mcr遺伝子とblaCTX遺伝子は別々のプラスミドに存在すること、両方のプラスミドが同時に水平伝播して、感受性株を両方の抗生物質に対する耐性株に変化させること、が明らかとなった。
ネコから分離された大腸菌1株は、mcr遺伝子を持っているがコリスチンに耐性ではないこと、mcr遺伝子の発現に必要とされる遺伝子を欠いていること、mcr遺伝子とblaCTX遺伝子は同じプラスミド上に存在し、このプラスミドが水平伝播することで、感受性株は第三世代セファロスポリン耐性株へ変化すること、が明らかとなった。
今回解析されたmcr遺伝子保有プラスミドはヒト-ペット間で伝播する可能性
また、今回解析されたmcr遺伝子を持つプラスミドは、過去にヒトや動物で発見されたmcr遺伝子保有プラスミドと非常に相同性が高かった(ゲノム配列が似通っていた)ことから、このプラスミドはヒトとペットの間で伝播する可能性が示唆された。
継続的なモニタリングは必須
2018年から2022年に検出された第三世代セファロスポリン耐性大腸菌34株(そのうちイヌ由来は31株)のうち、mcr遺伝子によるコリスチン耐性大腸菌は1株であったことから、少なくとも大阪府下のペットのイヌにおいてコリスチン耐性大腸菌はまだ蔓延していないと考えられる。しかし、ヒトと同じく今後拡大する可能性はあるため、継続的なモニタリングは不可欠だ。
「今回検出されたコリスチンと第三世代セファロスポリン耐性大腸菌はどこから伝播したのか定かではない。今後、ペットだけではなく飼い主や周囲環境、食餌を含めた評価へと研究を展開して包括的な評価を行うことで、ヒトとペット間の伝播リスクの評価につなげたい」と、研究グループは述べている。
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・大阪公立大学 プレスリリース