循環器疾患の主要8学会が作成に参加、10年ぶりの改定
熊本大学は3月10日、「冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療に関するガイドライン」が日本循環器学会のホームページで公開されたことを発表した。同ガイドライン(GL)は、10年ぶりの改訂版。同大大学院生命科学研究部循環器内科学の辻田賢一教授らのグループをはじめ、日本循環器学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心臓病学会、日本冠疾患学会、日本小児循環器学会、日本心臓血管内視鏡学会、日本心臓リハビリテーション学会、日本不整脈心電学会の循環器疾患の主要8学会の参加により作成された。GLは日本循環器学会が発行する英文誌「Circulation Journal」にも掲載されている。
冠攣縮性狭心症は、虚血性心疾患の一種で、冠動脈の痙攣によって一時的な狭窄が起こり、心臓の筋肉の血流が悪くなり生じる疾患である。夜間や早朝、朝方などの安静時に発作が起こること、非発作時の冠動脈を見ても血管の狭窄部は確認できないことが特徴とされている。原因としては、冠動脈が一時的に痙攣することで、冠動脈が収縮し血流が悪くなることによって冠動脈の内腔が一時的に狭くなる、もしくは閉塞して、数秒から数分程度の胸痛を引き起こすことが挙げられる。また、喫煙や飲酒、脂質異常症、ストレスなども原因とされており、動脈硬化との関連性もあるといわれている。冠微小循環障害は、血管造影で目にみえないくらい(500μm以下)の微細な冠動脈の循環に生じる障害で、障害により心筋虚血といった疾患が発生する。
2008年に「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン」として世界に先駆けて日本循環器学会から発表され、その後2013年に改訂版が発表されていた。なお、2008年、2013年改訂版は小川久雄熊本大学長(当時:同大大学院生命科学研究部循環器内科学教授)が中心となり作成されていた。
冠攣縮に関連する新たな疾患概念としてMINOCA、INOCAを記載
今回のGLでは、前回の改訂後に得られた冠微小循環障害やバイオマーカー、画像検査、生体イメージング、生理機能、遺伝子等の多方面からの新知見や診断技術の発展を踏まえ、冠攣縮性狭心症に関連する新たな疾患概念として、冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞(myocardial infarction with non-obstructive coronary arteries: MINOCA)と心筋虚血(ischemia with non-obstructive coronary artery disease: INOCA)の項目を記載した。また、心臓カテーテル検査時の冠攣縮薬物誘発試験において、局所的な冠攣縮のみならず、びまん性冠攣縮も陽性とすること等も新たに定めた。 病態・診断方法・治療方法のアップデートは次の通り。
【病態】 2型アルデヒド脱水素酵素遺伝子多型、冠微小血管攣縮、薬剤溶出性ステント留置後、小児疾患との関連
【診断】 基準の見直し、血管内超音波、光干渉断層法、血管内視鏡等の血管内イメージング、CTによる冠血流予備量比、磁気共鳴像(MRI)等の画像検査、冠血流予備能、冠微小血管抵抗指数等の生理学的検査や、内皮機能検査
【治療】 薬物治療、非薬物治療、心臓リハビリテーション
冠攣縮性狭心症は東アジアに多い疾患、欧米でも冠攣縮有病率は高いと最近報告
「もともと、冠攣縮性狭心症は東アジアに多い疾患であったが、最近では欧米でも冠攣縮有病率は高いことが報告され、見直されている。本ガイドラインの発表が、冠攣縮性狭心症、冠微小循環障害に対する標準的診断・治療のガイドとして全世界に発信され、全世界の患者の診断と治療に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・熊本大学 プレスリリース