大腸がん、抗がん剤治療後の再発が課題の一つ
九州大学は3月8日、大腸がん再発の原因となるがん幹細胞を新たに発見したと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授、比嘉綱己助教、岡毅寛研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Research」に掲載されている。
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大腸がんは男性では11人に1人、女性では13人に1人が一生のうちに一度はかかるといわれているほど身近な病気だ。患者の中には、抗がん剤治療後にがんが再発し、不幸な転帰をとる者も多く、医学的に大きな問題となっている。
がん幹細胞に2つの亜集団を発見、休眠状態の集団にはp57が特異的に発現
研究グループは今回まず、実際の患者の生理的環境を再現した大腸がんモデルを樹立した。このモデルによってできた大腸がんを1細胞RNA-seq法で解析。その結果、Lgr5を強く発現しているがん幹細胞の中に、2つの亜集団が存在していることが明らかになった。一方は増殖の速い集団であるのに対し、もう一方は増殖の遅い(休眠状態)集団であり、抗がん剤への感受性が異なることが予想された。後者の休眠状態のがん幹細胞には、遺伝子p57が特異的に発現していることが判明。この集団の鋭敏なマーカーとして使えることがわかった。
休眠状態のp57発現細胞、治療から生き延びて増殖
p57発現細胞は休眠状態にあるため、抗がん剤治療などを受けていない通常の状態だと、がんの成長にはそれほど寄与しない。しかし、抗がん剤治療を受けたあとには、がん再発の主役として登場する。増殖の速い細胞が死ぬ中、休眠状態のp57発現細胞は治療から生き延び、その後、休眠から覚めて増殖を開始することがわかった。つまり、抗がん剤治療を受けてもp57発現細胞を殺すことができない限り、がんは何度でも再発するとしている。
抗がん剤+p57発現細胞除去治療で、強力に再発抑制
そこで研究グループは、特殊な遺伝子の仕掛けと薬剤を用いて、がんの中のp57発現細胞を除去。抗がん剤治療のみの場合、がんの大きさは無治療と比べて小さくなるものの再発が起きる。しかし、抗がん剤治療とp57発現細胞を除く治療を組み合わせると、再発を強力に抑えられることがわかった。この結果は、p57発現細胞が治療後再発の主要な原因であることを証明する知見だとしている。
p57、有望ながん治療標的になることに期待
今回の発見は、p57が増殖の遅いがん幹細胞の目印としてだけでなく、抗がん剤抵抗性を司る実体分子として働いていることも示唆している。将来的に、がんの有望な治療標的になることが期待される、と研究グループは述べている。
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