アルツハイマー病の薬が抜毛症と皮膚むしり症の症状を軽減か
アルツハイマー型認知症の治療薬として長年にわたり使用されているメマンチンが、抜毛症や皮膚むしり症の症状の軽減に役立つ可能性が、米シカゴ大学精神科学・行動神経科学教授のJon Grant氏らが実施した臨床試験で示された。同試験では、メマンチンが投与された抜毛症や皮膚むしり症の患者の5人中3人で症状の改善が認められたという。詳細は、「The American Journal of Psychiatry」に2月22日掲載された。
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Grant氏によると、抜毛症と皮膚むしり症の米国での有病率は3~4%と推定されているという。これらの疾患の患者は、髪の毛などの自分の体毛を引き抜く、あるいは自分の皮膚をむしることがやめられず、実際に体を傷つけるまでそうした行為を続けてしまう人も多い。
米クリーブランドクリニックの情報によると、メマンチンには、脳内に最も多く存在する神経伝達物質の一つであるグルタミン酸の活性を阻害する働きがある。脳内のグルタミン酸の量が過剰になると、神経細胞が過度に興奮する。この状態は、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病、ルー・ゲーリック病(筋萎縮性側索硬化症)、多発性硬化症などの疾患に関与していると考えられている。このほか、グルタミン酸は気分障害や強迫性障害(OCD)との関連も示唆されている。
米国では、メマンチンは中等度~重度のアルツハイマー病型認知症の治療薬として、2003年に米食品医薬品局(FDA)に認可された。現在は、そのジェネリック薬も利用可能である。しかし、一部の精神科医は、OCDの治療薬としてメマンチンを適応外処方することがある。Grant氏は、「OCDは、抜毛症や皮膚むしり症と親類のような関係にある疾患だ」と説明する。このことから同氏は、グルタミン酸に影響を及ぼすメマンチンのようなアルツハイマー型認知症の治療薬が、抜毛症や皮膚むしり症の治療に有効なのではないかと考えた。
そこでGrant氏らは、抜毛症や皮膚むしり症の成人患者100人(女性86人、平均年齢31.4歳)を今回の臨床試験に登録し、8週間にわたってメマンチン(10〜20mg/日)を投与する群とプラセボを投与する群にランダムに割り付けた。このうちの79人が試験を完了した。その結果、症状が「大きく改善、または極めて大きく改善」した患者の割合は、プラセボ群ではわずか8.3%(3/36人)であったのに対して、メマンチン群では60.5%(26/43人)に達した。ただし、皮膚をむしったり体毛を引き抜いたりする行為を完全にやめることができた患者の割合は、プラセボ群で1人、メマンチン群でも6人にとどまっていた。
この結果についてGrant氏は、「メマンチンによって皮膚をむしるなどの行為は減ったが、完全にそれをやめられた患者は多くはなかった。ゆえに、同薬にはある程度の効果はあるが、完璧ではないのかもしれない」との見方を示している。
またGrant氏は、「今回の臨床試験で得られたポジティブな結果は、これらの疾患へのグルタミン酸の関与を示したものだと言える。ただし、最善の治療法を見出すためには、今後さらなる研究が必要だ」と話す。その上で同氏は、「格好のスタート地点となる研究結果が得られたと考えている」と前向きな姿勢を示し、今後の検討課題として、メマンチンの使用量の増量、効果が得られやすい患者の特定、あるいは他の薬剤や行動療法との併用などを考慮する必要性に言及している。
一方、米ニューヨーク・プレスビテリアン病院およびワイル・コーネル・メディスン精神科学教授のKatharine Phillips氏も、グルタミン酸をコントロールすることが抜毛症や皮膚むしり症の治療の鍵となる可能性があるとの見方を示す。同氏自身も、実際にこれらの疾患の治療でメマンチンを使用することがあるという。
Phillips氏は、「私にとってメマンチンは、抜毛症と皮膚むしり症に対して使用する2種類のファーストライン治療薬のうちの一つだ。これらのグルタミン酸調節薬は、特に強迫観念や反復的な強迫行動を特徴とする障害に対して有用な可能性がある」と説明。また、抜毛症や皮膚むしり症に対する効果が証明されている習慣逆転法にメマンチンを組み合わせる治療法も考えられるとしている。
▼外部リンク
・Double-Blind Placebo-Controlled Study of Memantine in Trichotillomania and Skin-Picking Disorder
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