トップ柔道選手の睡眠の質に関する研究はほとんど行われていなかった
筑波大学は3月8日、全日本柔道連盟の全面協力の下、全日本強化合宿に参加したトップ柔道選手86人のデータから、主観的な睡眠の質の状況とその関連要因(生活習慣・競技活動・競技ストレッサー・メンタルヘルス)について検討した結果を発表した。この研究は、同大体育系 武田文教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Sleep and Biological Rhythms」に掲載されている。
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ハードなトレーニングを日常的に行うアスリートにとって、良質な睡眠はパフォーマンスを向上させるために不可欠だ。これまでトップアスリートの睡眠の質に関する研究がいくつか行われているが、柔道競技のトップアスリートについてはほとんど検討されていなかった。
そこで研究グループは今回、全日本柔道連盟が開催する合宿に参加したトップ柔道選手を対象に、睡眠の質の状況を検討するとともに、その関連要因を明らかにすることを目的に研究を行った。
睡眠の質が「不良」は40.7%、他トップアスリートと比べると同等か悪い傾向
全日本柔道連盟の全面協力の下、2017年12月〜2018年1月に全日本強化合宿に参加したトップ柔道選手106人(東京2020オリンピック競技大会でメダルを獲得した12人を含む)を対象に、自記式質問紙調査を実施。106人全員が質問紙に回答し、このうち完全回答を得た86人(有効回答率81.1%)を分析対象とした。対象者の平均年齢は22.9±3.1歳、男性が52.3%だった。
ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いて主観的な睡眠の質を分析した結果、PSQI平均得点は5.3±2.1点で、睡眠の質が「不良」と判定された者の割合は40.7%だった。PSQIを用いた他のトップアスリートに関する研究結果と比較すると、同結果は、同等か悪い傾向にあることが判明した。
メンタルヘルス「不良」な者は、睡眠の質が不良となる確率が約3倍
また、PSQIを構成する7つの因子ごとに分析したところ、入眠時間、睡眠時間、日中覚醒困難の3つが、日本のトップアスリート集団(柔道を含む全ての競技のアジア大会代表候補)と比べて不良であることが判明した。このことから「寝付きが悪いこと」「睡眠時間が短いこと」「日中に強い眠気に襲われること」が、主な問題であることが示唆された。
さらに、筑波大学の研究チームが学生アスリートの睡眠の質に関する研究で用いたものと同じ項目を用いて、生活習慣(就寝時刻、起床時刻、飲酒、食事、消灯後の電子機器使用)、競技活動(競技歴、競技レベル、週当たりの練習時間、週当たりの朝練習(午前9時以前の練習)の頻度、同夜練習(午後9時以降の練習)の頻度、競技ストレッサー)、メンタルヘルスと主観的な睡眠の質の関係について、属性(年齢、性別、Body Mass Index)を調整したロジスティック回帰分析により検討した。
その結果、メンタルヘルスのみが主観的な睡眠の質と有意な関係を認め(調整後オッズ比3.38、95%信頼区間 1.26-9.08, p<0.05)、メンタルヘルスが不良な者は良好な者と比べ、睡眠の質が不良となる確率が約3倍であることがわかった。他のアスリート集団に関する先行研究では、メンタルヘルスに加えて生活習慣、競技活動、競技ストレッサーなどさまざまな要因が、主観的な睡眠の質と関係することが報告されているが、今回の結果はこれらと異なるものだった。
同研究で得られた知見から、トップ柔道選手の睡眠の質に関係する要因はメンタルヘルスであることが明らかとなり、メンタルヘルス対策の重要性が示唆された。
競技力向上に向け、「メンタルヘルス」支援体制整備の早急な検討が必要
今回の研究成果により、トップ柔道選手の睡眠の質は、トップアスリート集団の中では比較的悪い傾向にあり、入眠時間、睡眠時間、日中の覚醒困難が主な問題であることが明らかにされた。これを踏まえ、寝付きをよくしたり、睡眠時間や日中の仮眠時間を確保したりすることについての健康教育やモニタリングを検討することが望まれる。
「トップ柔道選手の睡眠の質を左右する鍵はメンタルヘルスにあることから、競技力のさらなる向上に向けて、メンタルヘルス支援体制の整備を早急に検討することが求められる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL