心不全の早期リハ有用性検証報告は若い集団が対象、高齢患者では?
東京大学は3月6日、90歳以上の超高齢心不全患者において、早期リハビリテーション介入が院内死亡率の低下、ADLの改善、入院日数の短縮、再入院率の低下と関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大の小室一成教授、康永秀生教授、金子英弘特任講師、上野兼輔研究員、北里大学の神谷健太郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Geriatrics Society」に掲載されている。
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近年の高齢化に伴い、90歳以上の超高齢心不全患者の割合が増加している。例として、日本では、90歳以上の心不全患者の割合は2018年時点で全心不全患者の約16.9%を占めている。そのため、臨床現場では90歳以上の心不全患者が治療対象となることはまれではなく、今後、その割合は増加すると予想されている。
リハビリテーションは、病態が安定した心不全(慢性心不全)患者の予後を改善する治療法として確立されている。近年では、早期からのリハビリテーション介入による臨床転帰の改善が報告されつつあり、リハビリテーションの早期介入が注目を集めている。しかし、心不全患者における早期リハビリテーションの有用性を検証した報告は、比較的若い集団を対象としていた。そのため、高齢の急性心不全患者における早期リハビリテーションの有用性は明らかにされていなかった。
90歳以上超高齢心不全患者4万1,896症例対象、早期リハの有用性を検証
研究グループは、厚生労働科学研究DPCデータ調査研究班データベースを用いて、90歳以上の超高齢心不全患者における早期リハビリテーションの有用性を検証した。2010年1月~2018年3月までに厚生労働科学研究DPCデータ調査研究班データベースに登録された90歳以上の急性心不全患者4万1,896症例を解析対象とした。早期リハビリテーションは入院後2日以内のリハビリテーション開始と定義し、それ以外を非早期リハビリテーションとし、2群に分類。同研究では、早期リハビリテーション実施の有無による2群間の臨床的背景因子の違いを考慮するために、傾向スコアマッチングを使用した。加えて、年齢や入院時の心不全の重症度などで層別化した解析を実施。さらに、結果の堅牢性を確認するために、早期リハビリテーションを入院後3日以内のリハビリテーション開始と定義した場合に関しても、同様の解析を行った。
院内死亡率低下、ADL改善、入院日数短縮、再入院率低下と関連
傾向スコアマッチングの結果、8,587組が作成され、2群間で臨床的背景因子のバランスは良好だった。傾向スコアマッチング後、非早期リハビリテーション群と比較して、早期リハビリテーション群は、院内死亡率の低下、ADLの改善、入院日数の短縮、再入院率の低下と関連していた。また、性別や入院時の心不全の重症度などで層別化しても一貫した結果が得られた。さらに、早期リハビリテーションの定義を入院後3日以内のリハビリテーション開始としても、同様の結果が得られたとしている。
高齢心不全患者への適切な治療指針確立に貢献し得る知見
今回の研究は、後ろ向きの観察研究であり、同研究によって早期リハビリテーション介入と予後の因果関係を証明することはできない。しかし、同研究を通して、入院早期からのリハビリテーション介入が高齢心不全患者の良好な短期予後と関連する可能性が示された。同研究結果は、近年数多く報告されている心不全患者に対するリハビリテーションの有用性を高齢の急性心不全患者においても示したものであり、今後の高齢心不全患者に対する適切な治療指針の確立に貢献し得る知見であると考えられるとしている。今後の研究により、高齢の急性心不全患者に対する安全で有効なリハビリテーション介入の具体的な方法が確立されることが求められる、と研究グループは述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース