コロナ禍における日本人IBD患者の不安解明のため、3,032人を対象にアンケートを実施
札幌医科大学は3月6日、炎症性腸疾患(IBD)患者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行中に感じる不安の内容を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部消化器内科学講座 仲瀬裕志教授を代表とする研究グループ(COVID-19 流行により生じた、本邦の炎症性腸疾患患者が感じた不安や行動変容に関するアンケート調査の多施設共同前向き観察研究グループ Japan COVID-19 Survey and Questionnaire in inflammatory bowel disease:J-DESIRE group)によるもの。研究成果は、「Journal of Gastroenterology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
COVID-19のパンデミックにより、IBD患者は受診による新型コロナウイルス感染の恐怖と、診察を延期することによるIBDの悪化に対する不安との間で大きなジレンマを経験していると予想される。また、IBD患者の治療には免疫抑制療法を行うことが多いが、同研究が実施された時期には、免疫抑制療法が新型コロナウイルスの感染に与える影響は研究中の状況だった。そのためIBD患者は、COVID-19関連の情報を入手する方法を知らず、治療を自己中断する可能性も考えられた。これらの不安や行動変容は、地域や国の特性により大きく異なることが予想されたが、日本での大規模な調査は行われていなかった。
そこで研究グループは、厚生労働科学研究費補助金 難病性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(杏林大学医学部 消化器内科学 久松理一教授らの研究グループ)における「JAPAN IBD COVID-19 Taskforce」の事業として、2020年3月~2021年6月の間に31の医療機関を訪れた3,032人のIBD患者を対象に、All Japanでのアンケート調査を行った。
感染者数増加から1か月後に不安が増強、理由は「通院中のコロナ感染」など
その結果、不安の程度はCOVID-19の波に応じて変動し、人口あたりの感染者数が増加してから1か月後に不安が増強した。不安の上位3つは「通院中に新型コロナウイルスに感染することへの不安」「基礎疾患としてのIBDを持つことにより新型コロナウイルスに感染するリスクが増えるのではないかという不安」「IBD治療薬により新型コロナウイルスに感染するリスクが増えるのではないかという不安」だった。
また、女性、専業主婦(主夫)、長い通院時間、電車による通院、免疫抑制療法の使用などに該当するIBD患者は、不安がより強いことが判明。日本において新型コロナウイルスワクチンが導入された時期からIBD患者の不安は低下したという。
多くが予定通り通院・治療を継続、医師から新型コロナの情報を得た患者35.6%
一方で、ほとんどのIBD患者は予定通りに通院し、治療薬を継続していた。しかし、医師から治療継続について説明を受けたIBD患者は42.6%、医師からCOVID-19の予防に関する情報を受けたIBD患者は35.6%に留まった。
IBD患者へ新型コロナに関する説明や情報発信を行い、不安を軽減することが必要
今回の研究は、日本在住のIBD患者を対象とし、COVID-19流行がIBD診療に与えた影響を患者の行動変容に着目して明らかにしたAll Japanの研究だ。同研究で得られたIBD患者がCOVID-19に対して感じる不安の内容を踏まえ、IBD患者への適切な説明や情報発信を行い、不安を可能な限り軽減する必要があると言える。
「いずれCOVID-19は終息すると考えられるが、日本在住のIBD患者がどのようなことに対して不安を感じ、どのようなことを医療関係者に期待しているかということは、今後の日常診療においても重要な情報になると考えられる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・札幌医科大学 プレスリリース