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中枢神経系原発悪性リンパ腫の術中迅速診断法を確立、15分で診断マーカーを同定-名大

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2023年03月06日 AM10:58

PCNSLのMYD88 L265P変異、有用な診断マーカーだが解析に時間がかかった

名古屋大学は3月3日、)に高頻度で見られるMYD88 L265P変異の迅速解析法を確立し、約15分で同遺伝子異常を同定することを可能にしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科脳神経外科学の山口純矢医員、大岡史治講師、齋藤竜太教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)は中枢神経系(脳、脊髄、目)に発生する節外リンパ腫のひとつで、まれな脳腫瘍ではあるが、高齢化に伴い、その発生数は近年増加している。近年の網羅的遺伝子解析により、PCNSLでみられる遺伝子異常が明らかになり、 L265P変異はPCNSLの70~80%にみられ、また脳腫瘍においてはPCNSLに極めて特異性の高い遺伝子異常であることがわかり、PCNSLの診断マーカーとしての有効性が報告されるようになった。

PCNSLは化学療法、放射線治療に極めて感受性が高いため、手術でわずかな腫瘍検体を採取しPCNSLの診断がつけば、放射線化学療法を行うことが標準治療となっている。しかしながら、手術中の迅速病理診断ではPCNSLの診断に苦慮する症例が経験されるため、正確な診断のための補助診断法が必要と考えられていた。MYD88 L265P変異は有用な診断マーカーだが、従来の解析手法は、解析に時間を要するため(数時間から数日)、手術中の補助診断には応用が困難だった。そこで研究グループは、PCNSLの手術中の診断精度の向上を目的とした、MYD88 L265P変異の迅速解析法の開発に着手した。

確立した迅速解析システム、約15分で変異含有率5%や5mgの検体量でも解析可能

マイクロ流路型サーマルサイクル技術を使用したリアルタイムPCR法を解析基盤として、MYD88 L265P変異の迅速解析システムを確立し、約15分(DNA抽出も含めて検体採取から約20分)で同遺伝子変異の判定が可能になった。これまでの解析手法では早くても3~4時間を必要とした解析時間が大幅に短縮された。腫瘍検体を用いた解析では、検体の変異含有率(VAF:variantallelefrequency)が重要だが、MYD88 L265P変異の検出限界を検証するため、MYD88 L265P変異または野生型を含むプラスミドの希釈系列を用いて解析を行った。結果、この解析システムでは、5%とVAFの低い検体からも解析が可能であることがわかった。18例のPCNSL症例のホルマリン固定パラフィン包埋切片から測定したVAFの中央値は40.1%であり、5%という検出域値は手術検体の解析にあたり十分であることが確認できた。また、実際に必要な手術検体の量を検証するため、異なる質量(1mg、5mg、25mg)の腫瘍検体を解析したところ、最低5mgの検体量があれば解析が可能であることがわかった。

悪性脳腫瘍患者24症例の手術中の迅速解析、術後に行った高感度検出法の結果と一致

術前にPCNSLが強く疑われた10症例を含む、悪性脳腫瘍患者24症例の手術中に、MYD88 L265Pの迅速解析を行った。MYD88 L265P変異陽性だった8例は、いずれもその後の病理診断でPCNSLの診断となり、MYD88 L265P変異陰性だった16例のうち2例がPCNSLの診断となり、14例は膠芽腫、転移性脳腫瘍、星細胞腫、乏突起膠腫であった。すべての症例で、術後に行った高感度検出法であるdroplet digital PCRの結果と、術中解析の結果は一致しており、この解析手法は実際の手術中迅速解析においても、精度の高い判定が可能であることがわかった。

疑われた2症例の髄液でもMYD88 L265P変異を同定

さらに、PCNSLを疑われた2症例から採取した髄液から、cell free DNA(cfDNA)を回収し、本解析手法で同様の解析を行ったところ、手術検体と同様に、MYD88 L265P変異の同定が可能であった。髄液からのMYD88 L265P変異の同定は、PCNSLのリキッドバイオプシーにつながる可能性がある。

術中診断の補助診断法として有用であるだけでなく、リキッドバイオプシーへの展開も期待

PCNSLの術中診断は判断に苦慮する症例があること、判断がつかない時に繰り返し検体を採取することは脳出血などの術中合併症につながる可能性がある。今回の研究の成果は、PCNSLの術中診断の補助診断法として有用であり、正確、かつ安全なPCNSLの生検術を可能にする。「PCNSLは高齢者に多く、解剖学的に生検が困難な部位に発生することも多く、手術をせずに診断する方法の確立が求められるが、研究の成果は、将来的には髄液を用いたリキッドバイオプシーへの展開が可能であると考えている」と、研究グループは述べている。

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