視床下部神経細胞の分岐鎖アミノ酸トランスポーター「LAT1」、恒常性調節との関連は?
岐阜薬科大学は3月3日、脳内アミノ酸トランスポーターが、肥満センサーとして働くことを発見したと発表した。この研究は、同大薬理学研究室の深澤和也助教、同大薬理学研究室・同大大学院連合創薬医療情報研究科・同大高等研究院 One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター(COMIT)の檜井栄一教授らの研究グループと、米国ノースウエスタン大学、金沢医科大学、金沢大学、名古屋市立大学、国立障害者リハビリテーションセンター、東京医科歯科大学、米国国立衛生研究所(NIH)との共同研究によるもの。研究成果は、「JCI insight」に掲載されている。
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肥満人口は年々増加しており、肥満に対する画期的な予防・治療法の確立は喫緊の課題だ。アミノ酸はタンパク質合成の材料としての受動的な働きだけではなく、シグナル伝達分子として能動的に働いている。アミノ酸シグナルの開始にはアミノ酸トランスポーターを介したアミノ酸の細胞内流入が欠かせない。L-type amino acid transporter1(LAT1、遺伝子名:Slc7a5)は、ロイシンやイソロイシンなどの分岐鎖アミノ酸を細胞内へ輸送するアミノ酸トランスポーターだ。
一方、脳の視床下部では神経細胞がアミノ酸を含むさまざまな栄養素を感知・統合し、内分泌系や自律神経系を介して、体温、血圧、摂食、生殖、睡眠・覚醒などの多様な生理機能を精密に調節している。しかし、視床下部の神経細胞がどのようにアミノ酸バランスを感知し、どのようなメカニズムで生体恒常性を調節しているのかは未解明だった。
LAT1欠損マウス、交感神経系の不活化を介し肥満やインスリン抵抗性などを誘発
研究グループはまず、遺伝子改変マウスを用いて「視床下部神経細胞のLAT1が、どのような機能を担っているのか」を検討。視床下部神経細胞特異的にLAT1を欠損させたマウス(以下、LAT1欠損マウス)を作製し、その表現型の解析を行った。その結果、LAT1欠損マウスは肥満やインスリン抵抗性など、さまざまな代謝異常を呈することがわかった。
LAT1欠損マウス、肥満以前より交感神経系不活化・視床下部神経細胞でレプチン抵抗性
次に、なぜ視床下部神経細胞のLAT1の働きを抑えると、さまざまな代謝異常を呈するのか」を明らかにするため、代謝異常に先駆けて起こる変化を詳細に解析した。その結果、LAT1欠損マウスでは、肥満を呈する前から交感神経系の不活化が認められるとともに、視床下部神経細胞でのレプチン抵抗性が確認された。
視床下部神経細胞のLAT1、mTORC1経路を介して全身エネルギー代謝を調節
最後に「視床下部神経細胞のLAT1がどのようなメカニズムで全身エネルギー代謝を調節しているのか」を検討した。組織学的解析から、LAT1欠損マウスの視床下部神経細胞では、mTORC1経路が不活化していることが判明。さらに、遺伝学的なmTORC1経路の活性化により、LAT1欠損マウスで観察されるさまざまな代謝異常が著明にレスキューされることが明らかになった。
肥満やメタボリックシンドロームに対する革新的治療法提供につながることに期待
今回の研究成果により、視床下部神経細胞のLAT1が、脳内アミノ酸バランスを感知しmTORC1シグナル経路を介して交感神経系を調節することで、全身エネルギー代謝調節に重要な役割を果たしていることが明らかになった。2019年の「国民健康・栄養調査」によると、日本の肥満(BMI≧25kg/m2)の割合は男性33.0%、女性22.3%に上り、成人の3~4人に1人が肥満というのが現状だ。同研究成果は「肥満センサーとしての脳内アミノ酸トランスポーター」という新しい概念を提供するとともに、「栄養素の感知・統合による中枢性の体重コントロール」に新たなエビデンスを付与したと言える。
本研究成果を展開することで、肥満やメタボリックシンドロームに対する革新的治療法の提供につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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