SLE患者の臓器障害・疾患修飾へのアプローチの実態、国際調査から日本の結果発表
グラクソ・スミスクライン株式会社(GSK)は2月28日、世界7か国(日本、米国、カナダ、中国、フランス、ドイツ、スペイン)のリウマチ専門医、腎臓専門医および内科専門医648人を対象に、ループス腎炎を有する患者を含む全身性エリテマトーデス(SLE:Systemic Lupus Erythematosus)患者の臓器障害および疾患修飾へのアプローチの実態を把握することを目的とした国際調査から日本の結果を発表した。
SLEは、完治が難しい慢性の自己免疫疾患で、全身のさまざまな場所、臓器に、多彩な症状を引き起こす。男女比は1:9ほどで、女性に多く、特に20~40歳の女性に多いとされ、日本全国に約6~10万人ほどの患者がいると考えられている。
ループス腎炎(LN:Lupus Nephritis)は、SLE患者の40~80%の患者でみられる重要な臓器病変であり、無治療では末期腎臓病に至る。SLE患者において、ループス腎炎の合併は生命予後の悪化につながるといわれている。経時的に変動するさまざまな症状を伴い、例としては関節の疼痛または腫脹、極度の疲労、原因不明の発熱、皮疹および臓器障害などがある。LNは、SLEによって引き起こされる腎臓の炎症(腫脹または瘢痕化)である。LNは末期の腎疾患に至る可能性があり、腎臓透析または移植が必要となる。過去数十年間で診断・治療がともに改善しているにもかかわらず、LNはSLE患者において依然として予後不良の指標となっている。LNの所見には、タンパク尿、血清クレアチニンの上昇、尿中に赤血球および白血球がみられるなどがある。
疾患修飾(Disease-modification)は、関節リウマチや神経変性疾患の領域において、医学的に、永続的な臨床効果を得ることを目的とし、疾患の根底となる病態に対して作用する治療として広く定義され始めている。一方で、現時点でSLEにおける疾患修飾の共通概念は確立されていない。しかし最近、SLEへの疾患修飾に関する記載が報告され始めている。
「新型コロナの蔓延などにより、臓器障害のリスクが高まった」と世界の44%の医師が回答
今回の調査は、2022年7月~9月に、ループス腎炎の既往のある患者さんを含むSLE患者の治療管理に精通しているリウマチ専門医、腎臓専門医、内科専門医648人を対象として実施された。各国の内訳は次の通り。日本(n=100)、米国(n=103)、カナダ(n=41)、中国(n=100)、フランス(n=102)、ドイツ(n=102)、スペイン(n=100)。
新型コロナウイルス感染症の蔓延などにより、多くの患者さんが診療の予約や最適な治療の機会を逃し、さらに一部の患者では臓器障害の発症や増悪につながるなどの臓器障害のリスクが高まったと、世界の約半数(44%)の医師が回答した。日本においても、40%の医師が同様の回答をしており、日本も例外でないことがわかった。
「診断後1年以上経過してから臓器障害のリスクを患者に伝えている」と日本の医師85%が回答
臓器障害について、日本の4人に1人(24%)の医師が、「患者に症状がなくても臓器障害が生じるリスクがあると認識している」一方で、85%の医師が、「診断後1年以上経過してから臓器障害のリスクを患者に伝えている」こと、また、2人に1人(46%)の医師が、「患者から先に臓器障害について話をされるまで待つことが頻繁にある」と回答した。
また、半数以上(64%)の医師は、「重大な臓器障害リスクのあるSLE患者を簡便に特定できる方法を求めている」と回答した。また、2人に1人(43%)の医師が、「SLEによる臓器への影響をモニタリングおよび測定することは困難である」と回答し、3人に1人(76%)の医師が、「現状の臓器の機能および障害のより正確な状況を示すバイオマーカーを特定したい」と回答した。
「生物学的製剤により臓器障害の進行を遅らせることが可能だと考えている」92%
5人に4人(88%)の医師が、「臓器障害は、主に活動性の基礎疾患と標準治療薬によって引き起こされることを認識している」と回答した。一方で、48%の医師が、「高用量ステロイドを使用するのはSLE患者に提供できる治療選択肢が限られているから」と回答した。そして、92%の医師が、「生物学的製剤により臓器障害の進行を遅らせることが可能だと考えている」にもかかわらず、54%の医師が、「患者に免疫抑制剤およびステロイドを使用したが無効であった場合にのみ生物学的製剤を使用すべき」と回答した。
「疾患修飾薬の不足によりSLEの治療が困難になっている」63%
疾患修飾について、84%の医師が、「SLEが複数の要因によって引き起こされている」と回答し、半数以上(66%)の医師が、「この疾患の多様性と全身のさまざまな部位に起こる臓器障害により、疾患を根治することは不可能である」と考えていることがわかった。そして、4人に3人(63%)の医師が、「疾患修飾薬の不足によりSLEの治療が困難になっている」と回答した。しかし、別の研究では、炎症プロセスを阻害する疾患修飾薬によってSLEの症状を緩和できると示されている。
臓器障害リスクを積極的に低減する長期的な治療管理計画を患者と一緒につくることが重要
調査結果を受け、ヒューストン大学ティルマン・フェルティッタ・ファミリー医科大学(University of Houston Tilman Fertitta Family College of Medicine)の腎臓専門医、医学部臨床教授で、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine) 非常勤准教授のDr Rajeev Raghavanは、次のように述べている。「臓器障害は、SLEと共に生きる人々にとって非常に現実的なリスクです。この調査結果は、ツールやガイドラインの改善の必要性を強調しています。また、私たち医師が、診断時に臓器障害のリスクについてSLE患者さんの理解を深めるために行動し、そして、臓器障害リスクを積極的に低減する長期的な治療管理計画を患者さんと一緒につくることが重要です」。
また、「臓器障害に関して、SLE患者さんと医師は対話をしていますが、SLE患者さんの臓器障害が患者さんとその家族に及ぼす影響を真に軽減するためには、さらに多くの対話が必要です。そして、その対話は、診断時に行われるべきです」と、世界ループス財団事務局(Lupus Foundation of America)のコミュニケーション担当Vice PresidentであるMike Donnelly氏は述べている。
▼関連リンク
・グラクソ・スミスクライン株式会社 プレスリリース