希少がん「子宮平滑筋肉腫」へ有効性の高い新規治療法の確立が望まれる
名古屋大学は2月28日、子宮平滑筋肉腫におけるプロスシラリジンAとラナトシドCの抗腫瘍効果を明らかにし、新たな治療標的としてUCP2遺伝子を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科産婦人科学の長尾有佳里大学院生、横井暁助教、梶山広明教授、国立がん研究センター研究所病態情報学ユニットの山本雄介ユニット長、国立がん研究センター中央病院婦人腫瘍科の加藤友康科長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pharmacological Researc」電子版に掲載されている。
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子宮平滑筋肉腫は、子宮悪性腫瘍全体の1%を占めるまれな悪性腫瘍。早期例であっても再発や転移を引き起こしやすく、非常に予後不良な疾患だ。子宮平滑筋肉腫に対する唯一の有効な治療法は早期手術による完全切除だが、切除不能または転移性の症例では化学療法が選択される。しかし、現在第一選択とされる治療薬の奏効率は20~30%と限定的。最近二次治療以降に承認された複数の薬剤についても、全生存期間または無増悪生存期間を2~3か月延長させるだけであり、その効果は非常に限られている。そのため、子宮平滑筋肉腫に対する有効性の高い新規治療法の確立が強く望まれている。
子宮平滑筋肉腫の新規治療法を探索した研究は少なく、また標準治療となるほどの有用性は見出されていない。最近、研究グループは、トランスクリプトーム解析に基づき、CHEK1またはPLK1阻害剤の治療適用の可能性を証明した。しかし、これらはまだ臨床使用が承認されていないため、臨床応用の実現までにやや時間を要する。一方で、近年、化合物ライブラリーを用いた薬剤スクリーニングが創薬において重要な役割を担っており、多くのライブラリーが報告され、一部は市販されている。すでに臨床使用が承認された薬剤を他疾患へ応用するというドラッグリポジショニング戦略は、創薬の時間とコストを削減し、子宮平滑筋肉腫のような希少がんの治療薬開発にも有効だ。
ロスシラリジンAとラナトシドC、マウスモデルで抗腫瘍効果を実証
今回、研究グループは、臨床使用がすでに承認された1,271の化合物ライブラリーを用いた3段階の薬剤スクリーニングによって、プロスシラリジンA、ラナトシドC、フロクスウリジン、ジゴキシンの4薬剤が特に子宮平滑筋肉腫細胞の増殖を抑えることを示した。これら4種類の薬剤をマウスモデルに投与したところ、強心配糖体であるプロスシラリジンAとラナトシドCが有意に抗腫瘍効果を持つことが実証されたという。
サーチュインシグナル経路でのUCP2遺伝子発現抑制で子宮平滑筋肉腫細胞増殖を抑制
これら2種類の薬剤投与によっておこる変化を調べるために、次世代シーケンスにより網羅的に遺伝子発現解析を実施。遺伝子の機能を解析ソフトIPAで解析したところ、薬剤投与によってサーチュインシグナル経路におけるUCP2遺伝子の発現が抑制されることが明らかとなった。さらにUCP2遺伝子発現の抑制によって子宮平滑筋肉腫細胞の増殖が抑制され、この抗腫瘍効果は、UCP2の抑制に伴う活性細胞種の増加によって細胞老化やDNA損傷を引き起こすことが原因であると示唆された。
子宮平滑筋肉腫、子宮筋腫などと比べUCP2遺伝子発現量が有意に多い
また、子宮平滑筋肉腫の患者組織では子宮筋腫の患者組織と比較して、UCP2タンパク質が過剰発現していることが明らかとなった。さらに、公共データベースに存在する子宮平滑筋肉腫のデータにおいても、子宮筋腫や正常子宮筋層と比較してUCP2遺伝子発現量が有意に多いことが示された。
今後、UCP2標的治療薬の開発などに期待
今回、研究グループは、薬剤スクリーニング戦略により、子宮平滑筋肉腫において顕著な抗腫瘍効果を示す新規治療薬候補としてプロスシラリジンAとラナトシドCを同定した。機能的には、子宮平滑筋肉腫で過剰発現しているUCP2をこれらの薬剤が低下させることが示された。したがって、これらの知見はUCP2が潜在的な治療標的であることを示唆し、UCP2阻害は子宮平滑筋肉腫患者の臨床転帰を改善する有望な治療戦略である可能性があることを示した。今後は、UCP2を標的とした治療薬開発や、子宮平滑筋肉腫の臨床試験による効果検証へつながることが期待される、と研究グループは述べている。
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