20年1月23日~12月5日の東京都感染者4万4,054人対象に後方視的解析
東北大学は2月27日、東京都に報告された新型コロナウイルス感染者を対象に、保健所での積極的疫学調査による情報を用いた後方視的解析を実施した結果を発表した。この研究は、東京都、同大学大学院医学系研究科微生物学分野の押谷仁教授ら、国立感染症研究所の研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open誌(電子版)」に掲載されている。
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大をコントロールすることは、ワクチン接種のみでは困難だ。人流の抑制や行動制限などの介入が世界的に実施されてきたが、社会経済活動への影響が大きいため、感染拡大のハイリスク群に実施の焦点を絞る必要があると考えられる。COVID-19感染拡大においては、クラスターの形成および連鎖が重要な因子だ。しかし、どのような社会的場面がクラスターを形成しやすく他の場面へのさらなる感染拡大を生じやすいのかに関するこれまでの知見は、主に、個別の流行事例の解析やモデリング研究から得られたものであり、大規模疫学情報に基づく研究はほとんど行われていなかった。
そこで研究グループは、今回、2020年1月23日~2020年12月5日の間に東京都に報告された新型コロナウイルス感染者4万4,054人を対象に、保健所での積極的疫学調査による情報を用いた後方視的解析を行った。
夜間営業の飲食店/医療機関・福祉施設、他の場面と比較してクラスターが多く発生
研究の結果、感染した場面が特定可能だった1万3,122人のうち、夜間営業の飲食店での感染報告者が1,174人、家庭内での感染報告者が6,678人、医療機関・福祉施設での感染報告者が2,733人だったことが明らかになった。感染した場面6,624件を特定したところ、夜間営業の飲食店の18.9%(72/380件)と医療機関・福祉施設の36.2%(119/329件)とでクラスターが多く生じていた。特定された夜間営業の飲食店380件の中では、接待を伴う飲食店でクラスターが30.6%(59/193件)と多く生じていた。一方、接待を伴わない飲食店でのクラスターは7.0%(13/187件)だった。夜間営業の飲食店での感染報告者は、家庭内および医療機関・福祉施設での感染報告者に先行して発生し、この傾向は異なる流行時期(第1・2波)で共通していた。
夜間営業飲食店の利用記録がある者は、早期発生・感染拡大を生じやすかった
感染した場面が特定可能だった1万3,122人のうち582人(4.4%)が、他の場面へのさらなる感染拡大を生じていた。夜間営業の飲食店での感染報告者と比較して、家庭内および医療機関・福祉施設での感染報告者は他の場面へのさらなる感染拡大を生じにくかったことが明らかになった。家族以外へのさらなる感染拡大に限定した解析では、夜間営業の飲食店での感染報告者と比較して、職場、家庭内、医療機関・福祉施設、その他での感染報告者はさらなる感染拡大を生じにくかったことが明らかになった。
感染した場面が特定できなかった3万932人においても同様の解析を行なった結果、夜間営業の飲食店を利用した記録がある感染報告者は、利用記録がない感染報告者と比較してより早期に発生し、また他の場面へのさらなる感染拡大を生じやすかった。家庭内では同世代間および異なる世代間で感染が伝播していたのに対して、家庭外では同世代間での感染の伝播が主だった。65歳以上への感染の伝播は家庭内で多く生じていた。
現在も、夜間営業の飲食店はCOVID-19感染拡大の重要な場面と推測
今回の研究では、新型コロナウイルス感染報告者の疫学情報を用いた解析によって、社会的場面ごとに異なる感染伝播上の特徴が明らかとなった。夜間営業の飲食店はクラスターを生じやすく、かつ他の場面へのさらなる感染拡大を生じやすいため、COVID-19感染拡大に関連している可能性が高いことが示された。
現在、オミクロン株の流行により感染の場面はより多様化している。ワクチン接種による感染予防効果は短期間に限られるが、ワクチン接種の普及に伴いさまざまな場面で行動制限の緩和が進んでいる。そのような中で、夜間営業の飲食店におけるオミクロン株由来のクラスターがさらなる市中感染につながった事例は、依然として報告されている。同研究ではワクチン接種普及以前かつオミクロン株流行以前のデータを用いたが、ワクチン接種が普及しオミクロン株が流行している現在においても依然として、夜間営業の飲食店はCOVID-19感染拡大における重要な場面であると推測される、と研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース