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保育器の消毒等で早産児の血中アルコール濃度上昇が判明、低減策を提案-筑波大ほか

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2023年03月01日 AM11:05

アルコール消毒は感染症対策に必須、保育器内の早産児に対する影響は?

筑波大学は2月25日、世界で初めて閉鎖型保育器(以下、)内の空気中アルコール濃度をリアルタイムで測定する手法を確立し、早産児の血中アルコール濃度と保育器内空気中アルコール濃度との関連性を調査した結果を発表した。この研究は、同大附属病院の藤山聡病院講師、同大医学医療系の高田英俊教授、国立環境研究所 環境リスク・健康領域の中山祥嗣エコチル調査コアセンター次長(兼)曝露動態研究室室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アルコール消毒剤は感染症対策に必須の医療品で、免疫不全状態の患者や新生児などの診療では頻用される。新生児診療において、もう一つ不可欠な医療品に保育器がある。全身の臓器が未発達の早産児は、母親の子宮外の環境にすぐには順応できないため、適切な温湿度が維持され、病原微生物による感染を起こしにくい清潔な保育器内での管理が必須だ。一方、保育器の狭く密閉された構造特性は、アルコール消毒剤から蒸発したアルコールが内部に滞留しやすいリスクが報告されている。しかしこれまで、保育器内の空気中アルコールの詳細な実態を把握する測定手段がなく、保育器内の早産児に対するアルコールの影響は明らかにされていなかった。

保育器内の空気中アルコール濃度をリアルタイムで測定し、早産児への影響を調査

研究グループは今回、工業用に開発されたアルコールセンサを用いることで、世界で初めて保育器内の空気中アルコール濃度をリアルタイムで測定する手法を確立し、早産児の血中アルコール濃度と、保育器内空気中アルコール濃度との関連性を調査した。なお、同研究は「Quality Improvement Study(医療の質向上研究)」として実施した3つの期間から成る前向き観察研究である。

保育器内の早産児の全血液検体からアルコールを検出、保育器内アルコール濃度は日中で高値

第1期では、保育器内の早産児におけるアルコール吸収の実態調査を実施した。保育器内に設置したアルコールセンサで保育器内の空気中アルコール濃度をリアルタイムで測定。早産児の血中アルコール濃度の測定には、ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いた。

その結果、保育器内の早産児から得た全ての血液検体からアルコールを検出。また、保育器内の空気中アルコール濃度は断続的・瞬間的な上昇を繰り返し、その濃度の中央値は、夜間よりも日中で高値だった。以上より、これまで不明だった保育器内の空気中アルコール濃度と早産児の血中アルコール濃度の実態が明らかになった。

アルコール消毒剤を用いた処置などの際に保育器内アルコール濃度が瞬時に上昇、低減策も考案

第2期では、「保育器内の空気中アルコールが早産児に吸収されているのではないか」という仮説を立て、保育器内の空気中アルコール濃度を下げるための対策を立案し、その効果を検討した。

まず、保育器内の空気中アルコール濃度が上昇する要因を把握するため、保育器内の様子をビデオ録画しアルコールセンサの測定値と照合したところ、保育器内のアルコール濃度はアルコール消毒剤を用いた処置などの際に、瞬間的に上昇することが判明。これには、「医療者(アルコール手指消毒後に医療用手袋を装着)によるアルコール綿を用いた医療処置」「医療者(同)によるアルコール綿を用いない医療処置」「アルコール手指消毒後に素手のまま保育器内の早産児と接触する家族のスキンシップ」の3つがある。

そこで、保育器内の空気中アルコール濃度が上昇する要因を低減する方策を提案し、「保育器内にアルコール綿を入れる際は消毒に必要な時間のみにして、できるだけ素早く取り出すこと」「家族はアルコール手指消毒後に60秒間手を乾燥させること」の2つを、「アルコール消毒指針(ABD-PRAC)」として医療従事者および患者家族に徹底したところ、効果的に保育器内でのアルコールの蒸発が抑制された。また、アルコールによる手指消毒後に医療用手袋を装着すると、保育器内のアルコール濃度の上昇を軽減できることも明らかになった。

低減策導入で、保育器内および早産児の血中アルコール濃度の低下を確認

第3期では、ABD-PRACを導入後、再び早産児のアルコール吸収の状況を調査。早産児の血中エタノール濃度および保育器内の空気中エタノール濃度の低下を認めた。早産児の血中アルコール濃度に関連する可能性のある因子を統計学的に解析したところ、ABD-PRACの導入による保育器内の空気中アルコール濃度の低下が、早産児の血中アルコール濃度の低下と最も関連していた。また、ABD-PRAC導入後の感染症の発症頻度やアルコール消毒剤の使用量に変化はなく、新生児診療における感染対策への影響はないことが示唆された。

以上より、保育器内では、新生児診療で頻用されるアルコール含有消毒剤から蒸発したアルコールが早産児の体内に吸収されていることが判明。また、ABD-PRACが、保育器内および早産児の血中アルコール濃度の低下に有効であることが明らかになった。保育器内の早産児のアルコール吸収による有害な症状の出現はこれまでに報告されていないが、ABD-PRACは新生児診療に重要な感染対策と保育器の機能に影響を及ぼすことなく導入できる、簡便で有効な対策と考えられるという。

今回提案したABD-PRACは、保育器内での早産児のアルコール吸収を軽減するために有効であり、今後、広く新生児診療への普及を進める予定だ。また、保育器内の空気中アルコール濃度をさらに軽減する方法を検討していくと、研究グループは述べている。

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