細胞移植/遺伝子治療の前段階で実施できる、安価で簡便な治療法の開発を目指す
九州大学は2月27日、網膜変性疾患の視機能を回復させる低分子化合物群を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院眼科学分野の園田康平教授、村上祐介講師、有馬充助教(当時)、藤井裕也大学院生(当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」オンライン版に掲載されている。
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網膜変性疾患では、徐々に視機能(視力や視野)が低下していく。特に、網膜色素変性に対しては、現時点で確立された治療法はない。細胞移植治療や遺伝子治療の実用化が期待されるが、製造コストの高さ、手技の専門性、侵襲性の高さなど解決すべき問題点も残されている。そこで、今回研究グループは、細胞移植治療や遺伝子治療の前段階で行うことのできる、安価で簡便な治療法の開発に取り組んだ。
培養ミュラー細胞に4種低分子化合物群の同時投与で、網膜視細胞へ効率的に分化
安価で簡便であることが命題であるため、研究グループは低分子化合物を同時に眼内に注射するだけで網膜視細胞をつくり出すことができないかと考えた。まず、複数の低分子化合物を治療薬候補に挙げ、培養細胞を用いた実験で全ての組み合わせを検証。4種類の低分子化合物群を同時に培養液に加えるだけで、ミュラー細胞が網膜視細胞へ効率的に分化することを見出した。これまでにも、順番に低分子化合物の刺激を加えることで、非神経細胞から網膜神経細胞への分化を実現した報告はある。しかし、複数の化合物を同時に加えるだけで網膜視細胞を生み出したという報告はないという。
4種低分子化合物群をモデル動物の眼内に同時注射でロドプシン陽性細胞出現、視機能が回復
続いて、この現象が生体内でも再現できるかどうか検証した。複数の網膜変性疾患動物モデルを用いた実験で、これら4種類の低分子化合物群を同時に眼内に注射するだけで、視細胞に特徴的なタンパク質であるロドプシンを産生する細胞が網膜内で増加することを突き止めた。また、このロドプシン陽性細胞の起源がミュラー細胞であり、ロドプシン陽性細胞の出現によって視機能が回復することも示した。
安価で簡便な網膜変性疾患新規治療薬の開発に期待
今回の成果から、網膜変性疾患に対する安価で簡便な新規治療薬の開発が期待される。早期治療介入により視機能を維持できれば、多くの網膜変性疾患患者にとって福音になると考えている、と研究グループは述べている。
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