質の低い教育は高齢期の認知症リスクと関連か
人種と早期教育は高齢者の認知症リスクと関連するようだ。新たな研究で、子どもの頃に教育の質が低い州の学校に通っていた人と、質の低い教育環境で育てられがちな黒人では、高齢期の認知症発症リスクの高いことが示された。米カイザー・パーマネンテ・北カリフォルニア(KPNC)のYenee Soh氏らによるこの研究結果は、「JAMA Neurology」に2月13日掲載された。
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この研究では、1997年1月1日から2019年12月31日までの23年間の縦断データが用いられた。このデータは、米国の大規模なヘルスケアシステムであるKPNCの会員のうち、1964〜1972年に実施された任意調査に参加し、1996年1月1日時点で65歳以上であり、同年には認知症と診断されていなかった、米国出身の非ヒスパニック系の黒人と白人2万788人から収集されたものだった。対象者の平均年齢は74.7歳で、56.5%が女性、18.8%が黒人、81.2%が白人であり、41.0%は高等教育を受けていなかった。対象者の電子カルテから認知症の診断の有無を確認し、認知症の発症と対象者が6歳時に受けた州の教育の質との関連を検討した。教育の質は、学校年度の長さ、生徒と教師の比率、出席率で評価し、三分位値で3つの群(「低い」「中程度」「高い」)に分けた。
質の低い教育を提供する州で育った人の割合は、白人では20.8~23.3%だったのに対し、黒人では76.2~86.1%と大幅に高かった。教育の質と認知症の発症リスクとの関連を検討したところ、質の高い教育を受けた人では、質の低い教育を受けた人に比べて後の認知症発症リスクが12〜21%有意に低いことが明らかになった〔ハザード比は、「生徒と教師の比率」で0.88、95%信頼区間0.83〜0.94)、「出席率」で0.80(同0.73〜0.88)、「学校年度の長さ」で0.79(同0.73〜0.86)〕。質の低い教育を受けた人と、質が中程度の教育を受けた人を比較した場合でも、後者で8〜17%の有意なリスク低下が認められた。
Soh氏は、「これらの結果は、教育、人種、および認知症発症リスクの関連を示したに過ぎない」と強調。その上で、質の低い教育を受ける子どもに認められがちな、医療全般へのアクセスの低さや、肥満、喫煙、高血圧リスクの高さなどが、認知症の発症を後押ししている可能性があると考察している。同氏はまた、「この知見から、州レベルの教育への投資が認知症発症リスクにとって重要なことは確実だ。また、人種・民族的マイノリティに属する人々における投資の不平等をもたらすシステム上の要因に対処するべきことも示唆される」と指摘している。
米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生学部のAndrea Roberts氏は、「この研究から、教育の質の低さが認知症発症の原因であることが明らかになったわけではないが、出席率を向上させ、十分な就学期間を設け、教員1人当たりの生徒数を低く抑えるなどの取り組みが、認知症だけでなく、それに関連する他の健康問題の予防になる可能性があることが示唆された」と述べている。
ただしRoberts氏は、「受けた教育の質が低くても、後年の認知症発症リスクを低減させるためにできることはある」と述べ、十分な量の運動、全粒穀物・果物・野菜・ナッツ類の豊富な食事、十分な睡眠、社会的つながりの増加、抑うつ症状の治療などを勧めている。
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