診査・問診や画像検査でしか評価できない顎関節の退行性病変、進行の予測や評価は困難
北海道大学は2月22日、女性の顎関節退行性病変に関わる分子としてCCL5を同定したと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究院薬理学教室の飯村忠浩教授、口腔診断内科学教室の北川善政教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」にオンライン掲載されている。
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顎関節の退行性病変は、顎関節を構成する下顎骨関節突起の病的な吸収に伴う形態変化を特徴とし、口腔顔面痛や、顎を動かした際の雑音、口の開け閉めの困難を引き起こす多因子性の疾患である。この病変には、若年者に特発性に生じる例や、顎変形症の手術後に生じる例、老化に伴う骨や関節疾患として生じる場合、リウマチなどの自己免疫疾患との関連として生じる場合など、多様な背景が考えられる。また、女性に多く発症することが知られている。この病気が進行すると、咬み合わせの変化や顔貌の変形をもたらし、顎口腔領域の機能性・審美性ともに障害される。これまで、顎関節の退行性病変は、臨床での診査・問診や画像検査でしか評価をすることができず、病態の進行を予測・評価をすることは困難だった。そこで、客観的にこの病態を評価できるバイオマーカーの発見が望まれていた。
女性患者の血清CCL5とTNFαの量、血清および尿中の骨代謝関連分子を比較検討
今回の研究では、国立国際医療研究センター病院歯科・口腔外科を受診し、進行した顎関節の退行性病変(いわゆる進行性下顎頭吸収症)と診断された女性患者(17人、10~70歳台)および対象健常者(17人、10~70歳台)から、採血・採尿し、血清中のCCL5の量を抗体免疫学的測定法より定量比較した。同時に、血清および尿中の骨代謝関連分子、血清中の炎症性分子であるTNFαの量を比較検討した。
血清CCL5量の上昇、若年群は骨代謝に関連する分子群、高齢群は炎症性分子の上昇と関連
研究の結果、患者群では、血清CCL5の量が、健常者群に比較して3〜4倍に上昇していた。患者の年齢構成から、42歳以下(若年群)と43歳以上(高齢群)に分けて比較検討したところ、若年群での血清CCL5量の上昇は、骨代謝に関連する分子群の上昇と相関していた。また、高齢群では、血清CCL5量の上昇は、炎症性分子の上昇と関連していた。
研究グループはこれまでの基礎研究によって、血液中のCCL5が骨や関節を吸収する破骨細胞という細胞の活性を高めることを解明していた。従って、今回の研究成果から、このCCL5の体内増加が顎関節の退行性病変の発症に関わることが考えられた。さらに、比較的若い女性患者では骨代謝のわずかな亢進が、一方で高齢の女性患者では炎症性変化の亢進が、この顎関節の病気に関与することが明らかになった。
予測や診断だけでなく新たな治療法の開発につながると期待
「本研究のさらなる発展により、血清中のCCL5量や他のバイオマーカーを組み合わせて臨床検査をすることで、顎関節の退行性病変の予測や診断、予後の診断、さらには新たな治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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