感覚面でさまざまな困難が生じる発達障害、障害特性に応じた困りごとの違いは不明
国立障害者リハビリテーションセンター研究所は2月21日、発達障害のある人の感覚の問題を調査し、感覚の問題が最も顕著なのは聴覚であるが、自閉スペクトラム症(ASD)のある人では触覚の問題も無視できないことを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所脳機能系障害研究部発達障害研究室の和田真氏、石井亨視氏、名和妙美氏、障害福祉研究部心理実験研究室の清野絵氏、企画・情報部発達障害情報・支援センターの西牧謙吾氏、林克也氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Psychiatry」にオンライン掲載されている。
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発達障害のある人は、感覚面でさまざまな困難が生じる。発達障害のうち自閉スペクトラム症(ASD)は、社会性とコミュニケーションの問題と反復する行動・興味の限局が主要な障害特性だが、「感覚過敏」や「感覚鈍麻」など感覚の問題も生じることが、米国精神医学会の診断基準(DSM-5)に書かれている。さらに注意欠如多動症(ADHD)や学習障害(LD)などASD以外の発達障害を持つ人も、さまざまな感覚の問題を有していることが、いくつかの論文で報告されている。
しかし、聴覚過敏などが顕著であることは知られているものの、多様な感覚の問題の詳細、たとえば、感覚の困りごとの障害特性に応じた違いが明らかになっていないため、必ずしも適切な支援につながっていないのが現状である。そこで、研究グループは、感覚にまつわる日常の困りごとを「見える化」することを目的に、調査を実施した。具体的には、(1)障害特性により、感覚の問題の出現頻度に違いがあるか比較した。(2)感覚の問題の年齢層ごとの違いを比較した。(3)自由記述を分析し、それぞれの感覚ごとにどのような問題が含まれていたかを分析した。
最もつらい感覚は聴覚が最も多いが、ASDでは触覚、LDでは視覚の問題も相対的に多い
まず、障害特性により、感覚の問題の出現頻度に違いがあるかを比較した。「最もつらい感覚の問題」として、聴覚の問題が全415件の回答の半数以上(約55%)を占めることがわかった。視覚、触覚、嗅覚の問題に関する記述は、それぞれ10%程度だった。このことは、日常での困りごととして、聴覚の問題の比重が大きいことを示している。ところが「二番目につらい感覚の問題」「三番目につらい感覚の問題」となると、視覚や触覚、嗅覚の問題など他の感覚に関する記述も多くなった(いずれも15〜20%)。発達障害のなかでASD、ADHD、LDを対象として、各障害の診断の有無による感覚の問題を感じる人の割合を比較した。いずれも聴覚の問題が顕著であることは変わりがないものの、ASDを持つ人では、最もつらい問題として、触覚の問題と述べた回答が、ASDを持たない人に比べて相対的に多いことがわかった。つまり、触覚刺激に鋭敏というような特有の感覚特性がASDのある人にとって他の障害より困難の原因になりやすいと考えられる。一方、LDを持つ人では、視覚の問題に対する回答が相対的に多いことが明らかになった。
味覚の問題は、未成年者層で多く中年層で少ない傾向
次に、年齢層ごとに感覚の問題の違いを比較するため、全ての回答を年齢層にわけて分析したところ、味覚の問題に関する記述は、未成年者層で多く、中年層で少ないことがわかった。なお「味覚の問題」の回答には、食感や苦手な食べ物に関する記述も含まれていた。
自由記述の検討により、感覚の問題の種類が2つに分かれることが明らかに
さらに、具体的にどのような感覚の問題がふくまれていたのか、自由記述の検討を行った。各感覚でどのような問題が記述されていたかを分類した。聴覚、視覚、嗅覚については、強い刺激や特定の刺激が苦手という種類の問題と、複数の刺激が同時にやってくることで混乱や苦痛が生じるといった種類の問題に、分かれることがわかった。その他、前庭覚、気圧、気温に対する困りごとなどの問題についても同様に分析を行い、報告した。
よく知られている感覚の問題だけでなく、特性に応じた個別の対応が必要
「本調査から、日常生活上で、大きな問題となっている感覚の困難の実態が浮かび上がってきた。すなわち、感覚の問題は、よく知られている聴覚や視覚に関するものだけではなく、それ以外の感覚の問題が最も困難と感じている人も一定数いることと、つらさの内容もさまざまであることから、特性に応じた個別の対応が必要であることが明確になった」と、研究グループは述べている。
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・国立障害者リハビリテーションセンター研究所 報道発表