腸内細菌が放出する100nmサイズの小胞は「肝硬変」の悪化に関与するのか?
新潟大学は2月21日、肝硬変の悪化の新たな機序として、腸内細菌が放出する100nm前後のとても小さい小胞が関与し、肝臓に新たな炎症を起こして線維化を悪化させ、また、肝臓が産生し、むくみや腹水などの原因にもなる血清アルブミンも低下させることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の土屋淳紀准教授、夏井一輝大学院生、寺井崇二教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Liver International」電子版に掲載されている。
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日本国内における肝硬変の患者数は40万人、年間の死者は1万7,000人に及ぶ。肝硬変が進行してくると黄疸、腹水、静脈瘤破裂、肝細胞がんの発症など、さまざまな症状や病態を呈し、ウイルス、アルコール、生活習慣など肝障害の原因を解決したとしても、再生能力は乏しく、線維化も改善せず進行してしまうことが多く見られる。このような、肝硬変が改善しなくなった状態を「point of no return」と呼ぶ。ここに至る原因は複数あると考えられているが、腸の中に無数に存在する腸内細菌もその重要な原因の一つだ。これまでの報告や臨床上の観察から、肝硬変の際には、腸では腸内細菌の多様性の低下、腸運動能の低下、粘膜のむくみ、粘液産生の低下や上皮接着バリア機能の低下、免疫能の低下などのさまざまな要因により、腸内細菌の影響を受けやすくなることが観察されていた。
研究グループは今回、腸内細菌そのものが侵入しなくても、100nmと非常に小さいサイズの小胞が侵入することで、肝臓に悪影響を与えるという可能性を新たに推定し、研究を行った。
大腸菌の小胞が、マクロファージや好中球に対して炎症を惹起
研究では、肝硬変の病態悪化時に検出される大腸菌の小胞を用いて、肝臓の細胞に与える影響と肝硬変モデルマウスに与える影響を解析した。
その結果、大腸菌の小胞はマクロファージや好中球に対して炎症を惹起することが判明。また、その際にこれらの細胞でClec4e(macrophage-inducible C-type lectin: Mincle)の発現が上昇していることが明らかになった。さらに、肝臓の機能に最も重要で大半の領域を占める肝細胞には、アルブミンの再生低下をもたらすなど、重要な変化を及ぼすことがわかった。
小胞投与でモデルマウスの肝臓の線維化が悪化し、アルブミンも低下
また、肝硬変モデルマウスに大腸菌の小胞を投与すると、肝臓に炎症を惹起させ、線維化が悪化。肝細胞で産生され血液中に放出されるアルブミンも低下することが明らかになった。そして、この炎症の軽減や線維化の悪化は、アルブミンをマウスに投与することで軽減することが確認された。また、肝臓外から集まってきたマクロファージにClec4eが発現していることも確認された。
肝硬変患者で、細菌の小胞が侵入している所見を複数確認
今回の解析で、肝硬変患者では腸内細菌の小胞が侵入を示唆する所見が見られたとしている。また、細菌の小胞に存在するタンパク質に対する抗体価が高いことが確認された。
これらの小胞は実験的に、炎症の惹起と引き続く線維化の悪化、そしてむくみや腹水の原因ともなるアルブミンの低下などをもたらし、深刻な影響を引き起こす可能性があることが示唆された。
細菌の小胞の侵入を防ぐ「腸バリア機能強化剤」など、新たな可能性の探索へ
今回の研究成果により、新たに進行した肝硬変患者が慢性的に細菌の小胞などによって炎症に暴露され、肝臓および全身に障害を及ぼす機構が明らかにされた。この現象は、肝硬変患者に日常的にみられる軽度の炎症・発熱と関連している可能性があるという。
「肝硬変患者を悪化させないために、細菌の小胞の侵入を許さない新たな腸のバリア機能強化剤などの方法が必要となるため、可能性を探っていく」と、研究グループは述べている。
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