P. sabiaeを投与した水槽で1か月間ゼブラフィッシュを飼育し、行動や腸内細菌叢を解析
三重大学は2月16日、腸内細菌「Paraburlholderia(P. sabiae)」を投与した水槽でゼブラフィッシュを飼育することで、その後の不安行動が軽減されること、また、同現象に腸内細菌叢やその機能の変化が関わることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大教育学部理科教育講座の市川俊輔准教授、同大学院地域イノベーション学研究科の臧黎清特任講師、同医学系研究科の島田康人講師(兼 次世代創薬ゼブラフィッシュスクリーニングセンター代表)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Microbiology」に掲載されている。
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脳と腸およびそこに生息する多様な腸内細菌は密接に関わっている。例えば、腸内細菌は腸や脳での神経伝達物質合成を調節することにより、宿主行動に影響を与えると考えられている。またプロバイオティクスなどの言葉で知られている通り、特定の細菌の摂取により腸内細菌の組成(腸内細菌叢)に影響を与えられることがわかっている。例えば、乳酸菌「Lactobacillus rhamnosus」を投与したマウスでは、不安行動が軽減されることが報告されている。
ゼブラフィッシュは行動試験に利用できるモデル動物だが、ゼブラフィッシュを新しい水槽に移した直後には水槽底面に滞在する行動が観察され、これが不安行動評価試験として確立している。また、他のモデル動物の場合と同様に、ゼブラフィッシュの腸内細菌叢も行動に影響を与えることが報告されている。例えば、抗生物質を用いて腸内細菌の生育を阻害したゼブラフィッシュは、多動性を引き起こすことが報告されている。
研究グループは今回、昆虫からヒトまで広範囲の動物腸内に存在するが、機能の解析が進んでいない細菌P. sabiaeに着目。これを投与した水槽で1か月間ゼブラフィッシュを飼育し(細菌投与ゼブラフィッシュ)、その行動や腸内細菌叢を解析することで、脳腸相関メカニズムの解明を試みた。
細菌投与ゼブラフィッシュの行動から「不安行動」が軽減されていることを確認
まず、細菌投与ゼブラフィッシュを新しい水槽に移し、その後の行動を観察した。すると、細菌投与ゼブラフィッシュの遊泳速度、遊泳加速度、遊泳距離は、大きくなる傾向があった。また、水槽底面からより広い範囲を移動する行動を示した。以上のことから、細菌投与ゼブラフィッシュの不安行動が軽減していると考えられた。
抗不安作用をもつ「タウリン」濃度が、細菌投与ゼブラフィッシュ脳内で上昇
続いて、ゼブラフィッシュの腸内容物DNAのメタゲノム解析を行うことで、腸内細菌叢を解析した。細菌投与ゼブラフィッシュの腸内では、Xanthobacteraceae、Bradyrhizobiaceae、Rhodospirillaceae、Pirellulaceaeといった細菌の存在割合が大きくなっていることがわかった。
各種細菌は化合物を合成したり分解したりといった代謝能力を持っており、腸内細菌叢情報から、その代謝機能を推定することができる。細菌投与ゼブラフィッシュ腸内では、タウリン代謝能力が変化していることが推定できた。ヒトにおいて、神経伝達物質タウリンの脳内濃度と不安との間に負の相関関係があることが報告されている。また、タウリンを投与することでゼブラフィッシュのストレス行動を抑制できることが報告されていた。
細菌投与ゼブラフィッシュの脳内でのタウリンを測定したところ、その濃度が約3倍上昇していることがわかった。また、脳内での特定のタウリン合成遺伝子の働きが促進されていることも明らかになった。
不安軽減効果のあるヒト腸内細菌の探索や腸内細菌叢に着目した食事などの提案に役立つ可能性
今回の研究成果により、P. sabiaeを与えることで、ゼブラフィッシュの不安行動を軽減させられることが示された。また、この現象は腸内細菌叢の変動や脳内タウリン濃度上昇といった腸脳相関を介したメカニズムによって生じることも判明した。
「本研究で明らかにした知見をもとに、不安軽減に効果があるヒト腸内細菌を探索していくこと、また腸内細菌叢に着目した食事や生活習慣を提案することができる可能性があると考えている」と、研究グループは述べている。
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