成人期の患者対象の調査は行われていなかった
国立成育医療研究センターは2月20日、生まれつき甲状腺ホルモンを作ることができない先天性甲状腺機能低下症の成人患者103人を対象とした調査研究を行い、甲状腺腫がある先天性甲状腺機能低下症の患者の71%に、甲状腺結節が見られることがわかったと発表した。この研究は、伊藤病院(東京都渋谷区、病院長:伊藤公一)の渡邊奈津子内科部長、杉澤千穂医師と、同センター分子内分泌研究部の鳴海覚志室長らが共同で実施したもの。研究成果は、「Thyroid」に掲載されている。
画像はリリースより
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先天性甲状腺機能低下症は、生まれつき甲状腺ホルモンを作ることができない病気で、正確な統計データはないが、日本全国で約4~6万人の患者がいると考えられている。日本では1979年に新生児マススクリーニングの対象疾患に指定され、それ以来、大半の患者が乳児期に診断を受けるようになっている。現在では、乳児期に診断を受けた多くの先天性甲状腺機能低下症患者が成人年齢に達しているが、このような患者の甲状腺の状態を詳しく調べた調査研究はなかった。
患者103人が対象、甲状腺結節を持つ割合などを調査
研究グループは、以下条件を全て満たす患者103人を対象に調査した。条件は、「新生児マススクリーニングを通じて、先天性甲状腺機能低下症と診断された」「十分な甲状腺ホルモン補充療法がなされ、かつ、甲状腺超音波検査を受けている」「20歳以降に伊藤病院を受診」。対照群は、健常者(プレコンセプションケアのため伊藤病院で血液検査、甲状腺超音波検査を受けた21~42歳の女性168人)だった。
超音波検査で測られた甲状腺のサイズに基づいて、1)甲状腺サイズ大(甲状腺腫、14人)、サイズ正常(24人)、サイズ小(65人)の3グループに分類、2)血液検査と甲状腺超音波検査の結果を分析、3)直径1cmを超える甲状腺結節(甲状腺にできるしこり)を持つ患者の割合を調査した。
甲状腺結節は、豆粒大からゴルフボール大まで、しこりの大きさはさまざまあるが、今回の研究では直径1cmを超えるしこりを甲状腺結節と定義した。多くの甲状腺結節は良性であるが、悪性の場合もあるため画像検査や針生検の所見に基づき、その性質を見分ける必要がある。
甲状腺腫がある患者の71%に甲状腺結節、年齢の近い健常者と比べても著しく高い
甲状腺結節を持つ割合は、甲状腺サイズが正常な患者では4%(1人)、サイズ小では0%(0人)であったのに対し、甲状腺腫(サイズが大きい患者)では71%(10人)と高くなっていた。年齢の近い健常者での割合(6%、10人)と比べても著しく高い割合で、甲状腺結節が生じていることが明らかになった。また、先天性甲状腺機能低下症の原因検索として行った遺伝子解析では、甲状腺腫のある患者の約90%で甲状腺ホルモン合成に関わる遺伝子の異常が特定された。
定期的な超音波検査による観察が望まれる
研究では悪性の甲状腺結節(甲状腺がん)は見られなかったが、甲状腺腫がある先天性甲状腺機能低下症において、甲状腺がんの合併が見られたとする文献報告もある。「現時点では、先天性甲状腺機能低下症において甲状腺がんが合併する頻度は不明であるが、特に甲状腺腫がある患者においては、定期的な超音波検査により甲状腺の状態を注意深く観察していくことが望ましい」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース