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サルコペニアの血中マーカー/重症筋無力症の自己抗原としてMuSKを同定-都長寿研ほか

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2023年02月21日 AM10:38

骨格筋表面に限局のMuSK、筋障害で血中に遊離しバイオマーカーとなり得るか?

東京都健康長寿医療センターは2月20日、神経筋損傷、神経筋難病やサルコペニア(加齢性筋委縮症)が原因で神経筋シナプス機能が障害されると、本来は神経筋シナプスの筋側に限局して発現する受容体タンパク質MuSK(muscle-specific-kinase)が骨格筋全体に広がり、加えてタンパク質分解酵素の働きにより筋から切断され血中へ遊離して顕著に増加することを発見したと発表した。この研究は、同医療センター老年病態研究チーム運動器医学の重本和宏研究部長、森秀一研究員、大村卓也研究員、周赫英研究員、プロテアーム研究部門の津元裕樹主任研究員ら、 医学部神経内科、京都がくさい病院神経内科、脳神経内科千葉、東邦大学佐倉病院神経内科、千葉大学医学部神経内科、東京都健康長寿医療センター脳神経内科の研究グループによるもの。研究成果は、「Experimental neurology」電子版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

神経筋難病やサルコペニアの発症前期から神経筋シナプスの機能障害(脱神経支配)が起きていることがわかっている。また、最近の研究により、神経筋シナプスのMuSKタンパク質を活性化すると神経筋難病とサルコペニアの進行を抑制する効果があることが報告されている。しかし、これまでシナプスの機能障害を血液で診断する方法がないため、創薬研究と臨床診断の両方に有用な血液診断バイオマーカーが求められている。研究グループは、本来骨格筋の表面に固定されているMuSKタンパク質が、筋萎縮が発症する前から起きる神経筋シナプスの機能障害が引き金となって血液中へ切断され遊離すると予想し、血液診断バイオマーカーとして利用することを考え研究を行った。

MuSKは脱神経支配で骨格筋全体に発現、酵素に切断されて血中に遊離

脳からの運動信号が脊髄の運動神経細胞を通り、神経線維の終末部と筋線維と接触して形成される神経筋シナプスを経て、骨格筋全体に伝わることで筋収縮が起きて運動が可能となる。神経筋シナプスの筋側で限局して発現する受容体型チロシンキナーゼのMuSKタンパク質は、運動信号を筋へと伝える神経筋シナプスの機能と形態維持に必須の分子だ。研究グループは、筋の運動神経損傷、神経筋難病やサルコペニアの発症前期から神経筋シナプスの機能が障害されて(脱神経支配)、神経筋シナプスに限局していたMuSKタンパク質の発現が骨格筋全体に広がり、加えてタンパク質分解酵素(マトリックスプロテアーゼ)の活性が骨格筋も誘導され、MuSKタンパク質がタンパク質分解酵素の働きにより骨格筋の膜から切断されて血中へ遊離して顕著に増加することを発見した。

血中MuSK、神経筋シナプスの障害/治癒を反映する診断マーカーとして利用可能

また、神経筋シナプスが再生して治癒する過程で血液中のMuSKタンパク質が減少することから、さまざまな原因による神経筋シナプスの障害の程度と、治癒過程を正確に反映する血液診断バイオマーカーとして利用できることを発見した。

血中MuSK、重症筋無力症の自己抗原にもなると判明

さらに、血液中に遊離したMuSKタンパク質が自己免疫疾患の自己抗原となることを見出した。研究グループは先行研究により、MuSKタンパク質に反応する自己抗体が、神経筋シナプスの機能を重度に障害して、急速な筋萎縮や呼吸筋障害などを伴う難治性の抗MuSK抗体陽性重症筋無力症が発症することを、世界で最初に報告している。

抗MuSK抗体陽性の重症筋無力症は、従来の治療に対して難治性の症例が多く、筋力低下から急速に筋萎縮を発症して死に至るケースもあるが、自己抗原の供給源が全く不明で根治治療の研究は進んでいない。今回の研究成果により、抗MuSK抗体陽性の重症筋無力症患者の神経筋シナプスの機能が障害され、それが引き金となり骨格筋から自己抗原のMuSKが血中へ遊離することがわかった。その結果、全身の血管中に存在する未熟なB細胞が、MuSK抗原で感作され抗MuSK抗体を産生するプラズマB細胞に分化して自己抗体を産生して血中から神経筋シナプスへ運ばれて、機能障害と病態がさらに悪化する悪循環をもたらすことを明らかにした。

神経筋難病のバイオマーカーや自己免疫疾患治療薬の開発に期待

同研究成果から、血液中のMuSKタンパク質の量の測定することで、運動神経損傷、重症筋無力症やその他の神経筋難病、サルコペニアの発症前・早期の診断、および治療薬の有効性を簡単に判定するバイオマーカーとして活用することが期待される。また、抗MuSK抗体陽性重症筋無力症には副作用の強い免疫抑制剤などの対症療法しかない。今回発見したバイオマーカーと産生メカニズムを活用して、MuSK抗原の産生を抑制して自己免疫疾患を制御する根治治療薬の開発が可能となる、と研究グループは述べている。

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