「マザリーズ」への関心の程度で自閉症の診断が可能に?
母親などが、高いトーンで、ゆっくりと、抑揚をつけて乳幼児に話しかける話し方を「マザリーズ」という。このようなマザリーズへの関心の程度が、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断や予後の指標となり得ることが、乳幼児を対象にした研究で示された。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)神経科学分野のKaren Pierce氏らが実施したこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に2月8日掲載された。
画像提供HealthDay
この研究では、生後12〜48カ月の乳幼児653人(平均月齢26.45カ月、男児73.51%)を対象に、乳幼児がマザリーズへ注意を向ける程度をASD診断の指標にできるのかどうか、また、それが社会的スキルや言語能力と関連しているのかどうかを調べた。マザリーズに注意を向ける程度は、Pierce氏らが開発したアイトラッキングテストにより測定した。これは、対象者に2本の動画を一つの画面に提示し、どちらをどれだけ見るのかを視線でコントロールさせることで、動画に対する対象者の関心を定量化するものである。提示される2本の動画のうちの1本は常にマザリーズを話す女優の動画(以下、「マザリーズ」)とし、もう1本は、1)高速道路を走る車とその騒音(以下、「高速道路」)、2)音楽とともに動く抽象的な形や数字(以下、「図形や数字」)、3)「マザリーズ」と同じ女優が同じセリフを抑揚のない口調で話すもの(以下、「抑揚のない口調」)のいずれかとした。
その結果、ASDのない児は一様にテスト時間の80%以上を「マザリーズ」の視聴に費やしたのに対して(「高速道路」とともに提示した場合で中央値82.85%、「形や数字」とともに提示した場合で中央値80.75%)、ASD児が「マザリーズ」に費やした時間の割合は0〜100%とさまざまだった。また、「高速道路」または「形や図形」と「マザリーズ」を提示した場合に「マザリーズ」の視聴に費やした時間が30%未満だった児では、この検査法だけで正確にASDを有すると診断できることが明らかになった(特異度と陽性的中率は、「高速道路」とともに提示した場合で98%と94%、「形や数字」とともに提示した場合で96%と94%)。これに対して、「マザリーズ」を「抑揚のない口調」とともに提示した場合のASD児とそれ以外の児の間で「マザリーズ」に注意を向ける程度の差はわずかであった。さらに、「マザリーズ」への関心が最も低かったASD児では、言語能力と社会的スキルも低かった。
このアイトラッキングテストは、まだ臨床の現場で利用されるには至っていないが、Pierce氏は、「ASDに対する早期治療は、成長に伴い遭遇する問題への対処や、場合によってはその克服に役立つことが示されている」と述べ、このテストが将来、ASDの診断と治療を早期に開始するための手段として活用されることに期待を寄せている。
Pierce氏によると、親が子どものASDの初期兆候を見つけることは可能であるという。同氏は、「生後12〜48カ月の子どもが親の語りかけに興味を示さないように見える場合、それはASDの警戒すべき初期兆候の可能性がある。このような兆候が認められた場合には、資格のある専門家とともに経過観察する必要がある」と説明している。
一方、この研究結果をレビューした、米国精神医学会(APA)のCouncil on Children, Adolescents and Their Families(小児、青少年、およびその家族の評議会)の会長を務めるAnish Dube氏は、「アイトラッキング技術は、ASDの早期発見に役立つツールになるだけでなく、言語の発達遅延のリスクが高い乳幼児や早期介入が必要な乳幼児の特定にも役立つかもしれない」との見方を示す。その上で、「親は子どもの行動に常に関心を持ち、子どもが取り得るさまざまな正常および異常な行動について知り、親とのやりとりも含めてその行動に疑問を感じた場合には、専門家のアドバイスを求めるべきだ」と助言している。
▼外部リンク
・Level of Attention to Motherese Speech as an Early Marker of Autism Spectrum Disorder
Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved.
※掲載記事の無断転用を禁じます。
Photo Credit: Adobe Stock