9種のTKIsにつき炎症誘導機構を網羅的に解析、特異性や共通性を解析
東北大学は2月16日、チロシンキナーゼ阻害薬(TKIs)がミトコンドリアに局在するmSFKsを共通の標的(オフターゲット)とすることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科の関口雄斗大学院生、高野紗彩薬学部生、野口拓也准教授、松沢厚教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Immunology」に掲載されている。
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TKIsは、がんの発症・進展に重要なチロシンキナーゼを選択的に阻害する抗がん剤。TKIsのように特定の分子を狙い撃ちする分子標的治療薬は、治療効果と安全性の高さが期待されている。現在では、さまざまなチロシンキナーゼを標的としたTKIsが30種類以上開発され、抗がん剤として広く使用されている。一方で、多くのTKIsは炎症を起点とした致死性副作用を惹起し、日本では1,000名以上の死者を出した。
研究グループは最近、代表的なTKIsの一種イレッサがミトコンドリア障害を誘導し、炎症を誘導するための分子複合体NLRP3インフラマソームを活性化することで、致死性副作用を惹起することを発見した。しかし、他のTKIsも同様のメカニズムで炎症を惹起するのか、また、イレッサがNLRP3インフラマソームを活性化する詳細なメカニズムは不明だった。そこで今回の研究では、イレッサを含むTKIsが炎症を誘導するメカニズムの全容解明を目的として研究を実施。イレッサを含む代表的なTKIs(9種類)の炎症誘導機構を網羅的に解析し、その特異性や共通性を解析した。
全てのTKIsに共通して、mSFKs活性阻害<ミトコンドリア障害誘導<炎症促進、が判明
研究の結果、解析を行った全てのTKIsが共通した機構で炎症を誘導することが判明。その機構として、TKIsはミトコンドリア障害を誘導し、NLRP3インフラマソームを活性化することで起炎物質インターロイキン-1β(IL-1β)の分泌を促進していることが判明した。
また、TKIsがミトコンドリア障害を誘導し、NLRP3インフラマソームを活性化する詳細なメカニズムも明らかになった。TKIsはミトコンドリアの機能維持に重要なSrcファミリーキナーゼ(mSFKs)の活性を阻害することが判明。さらに、ミトコンドリアに局在することが知られているmSFKsを遺伝学的手法で発現抑制して阻害した場合でも、NLRP3インフラマソームの活性化を介してIL-1βの分泌を促すことを突き止めた。従って、TKIsはミトコンドリアの機能維持に重要なmSFKsの活性を阻害することでミトコンドリア障害を誘導し、NLRP3インフラマソームを活性化させるというTKIsによる詳細な炎症誘導メカニズムが明らかになった。
TKIsによる炎症を起点とした致死性副作用の予防・治療法開発に期待
今回の研究では、TKIsが炎症を誘導するメカニズムの一端を解明した。その成果は、TKIsによる炎症を起点とした致死性副作用の予防・治療法開発につながることが期待されるとともに、炎症を起点とした致死性副作用を誘導しないTKIsといった革新的抗がん剤開発の足掛かりとなることが期待される、と研究グループは述べている。
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