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悪性神経膠腫の術後に生じる静脈血栓塞栓症、予測可能なマーカーを発見-新潟大ほか

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2023年02月17日 AM11:29

血栓形成の原因となりうるPDPNと可溶型CLEC-2値の相関関係はわかっていない

新潟大学脳研究所は2月16日、予後不良とされるイソクエン酸脱水素酵素遺伝子(IDH)野生型の悪性神経膠腫の術後に合併する静脈血栓塞栓症の機序と早期発見・予測のための指標()を同定することに成功したと発表した。この研究は、同大脳研究所脳神経外科分野の安藤和弘非常勤講師、棗田学助教、藤井幸彦教授、株式会社LSIメディエンスらの研究グループによるもの。研究成果は、「Thrombosis Research」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

悪性神経膠腫を含め、悪性腫瘍患者では10〜20%の割合で静脈血栓塞栓症を合併すると言われている。悪性神経膠腫における静脈血栓塞栓症の危険因子として、年齢・下肢麻痺・腫瘍のサブタイプなどが報告されているが、そのメカニズムについては不明な点が多い。研究グループは既に、悪性神経膠腫術後の静脈血栓塞栓症は、腫瘍細胞中のPodoplanin(PDPN、)が高頻度に発現されるIDH野生型悪性神経膠腫で多く、PDPNが静脈血栓塞栓症の危険因子となり得ることを報告している。

PDPNは血小板に発現しているCLEC-2受容体と結合することで血小板凝集を誘導することが既に知られている。血小板活性が高い状態では血漿中の可溶型CLEC-2値が高く、血栓形成において重要な役割を担っていると考えられている。可溶型CLEC-2は血小板活性と同時に血液中に放出され、血小板活性の重要なバイオマーカーの一つとして知られており、さまざまな疾患(血栓性細小血管症、播種性血管内凝固症候群、急性冠症候群および急性虚血性脳卒中)で上昇することが報告されている。しかし、可溶型CLEC-2値と腫瘍細胞中のPDPN発現量との相関関係については報告がない。今回の研究では、悪性神経膠腫における可溶型CLEC-2値と腫瘍細胞中のPDPN発現、さらには静脈血栓塞栓症合併との相関関係を明らかにし、血栓形成の病態生理についても解明した。

IDH野生型、可溶型CLEC-2値を血小板数で割った値「」が有意に上昇

2018年4月から2020年8月までに同研究所脳神経外科で手術介入を行ったWHOグレード3以上の悪性神経膠腫44症例を対象とし、IDH野生型群35例とIDH変異型群9例とで比較検討を行なった。静脈血栓塞栓症合併の診断にはDダイマー値を用いた。研究グループは以前、開頭術後に合併する静脈血栓塞栓症スクリーニングにおいてDダイマーが有用であることを報告している。血液中の可溶型CLEC-2の測定にはLSIメディエンス社製の専用ELISAキットを使用した。また、CLEC-2は血小板に発現しているため、血小板数に影響を受ける可能性があり、可溶型CLEC-2値を血小板数で割った値をC2PAC指数として定義し、比較を行った。なお、比較の対照群には悪性脳腫瘍以外の手術症例や健常ボランティアの結果も加えた。

PDPN発現量が高いIDH野生型悪性神経膠腫では可溶型CLEC-2値とC2PAC指数が対照群と比較して有意に上昇しており、血小板活性が亢進していることが示された。静脈血栓塞栓症の合併は合計9例で、IDH野生型群で多い結果(8例対1例)となった。

C2PAC指数が静脈血栓塞栓症の合併を予測できる可能性

IDH野生型群では静脈血栓塞栓症の合併が多く、可溶型CLEC-2値とC2PAC指数が高かったことを受け、次にIDH野生型群で可溶型CLEC-2値やC2PAC指数が静脈血栓塞栓症合併の予測因子となり得るかを検討した。IDH野生型群を、静脈血栓塞栓症を合併した8例と合併しなかった27例との2群に分け、2群における可溶型CLEC-2値とC2PAC指数を比較した。静脈血栓塞栓症合併群では可溶型CLEC-2値が高い傾向にあるものの有意差は認めず、C2PAC指数は静脈血栓塞栓症合併群で有意に上昇していた。また、静脈血栓塞栓症を予測するためのC2PAC指数のカットオフ値を3.7とすると、感度87.5%で特異度51.9%だった。

この結果から、IDH野生型悪性神経膠腫の術後では腫瘍に発現しているPDPNが血中に放出されCLEC-2との結合体が形成されることが、静脈血栓塞栓症合併の重要な因子であることが判明した。つまり血小板活性が術後の静脈血栓塞栓症合併に関わっており、C2PAC指数は静脈血栓塞栓症合併を予測・診断する新しいバイオマーカーとなる可能性があることが示された。これまで静脈血栓塞栓症の合併には、既に生じているであろう血栓をD-dimer値でスクリーニングすることが一般的だった。今回の研究ではCLEC-2値やC2PAC指数を用いて血栓が形成される前の段階で予知ができる可能性があり、より安全な術後管理につなげることができる。また、これまで静脈血栓塞栓症合併には、凝固因子が強く関わっているとされているが、今回の研究で血小板活性も強く関わっていることが示され、今後の治療選択に役立てられる可能性がある。

「本研究では、血栓塞栓症を合併した時点での評価であったが、今後は合併する前段階での評価も加え、CLEC-2やC2PAC指数がどのように推移するかを検討する必要がある。さらには抗血小板剤や抗PDPN療法が治療薬として選択できるかどうか、動物実験を含め、検証をしていく必要があると考えている」と、研究グループは述べている。

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