保険適用の基になった試験の日本人は少数、より多くの日本人患者を対象に検証
久留米大学は2月16日、日本人の12~17歳のC型肝炎患者に対し、内服の抗ウイルス薬であるグレカプレビル・ピブレンタスビル(製品名:マヴィレット配合錠)を8~12週間投与し、初回治療で96%が完治(ウイルス消失)したことを全国多施設での調査により明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部小児科学講座の水落建輝准教授、熊本大学消化器内科の田中靖人教授、近畿大学小児科の田尻仁研究員らを中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Gastroenterology」に掲載されている。
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成人のC型肝炎では、直接作用型抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirals:DAA)の登場により8~12週間の内服薬で95%以上が完治(ウイルス消失)する時代となっている。日本では小児に保険適用のDAAはなかったが、日本も参加した12~17歳の小児C型肝炎患者を対象とした国際共同試験(DORA-1試験)の結果を踏まえて、2019年にDAAのグレカプレビル・ピブレンタスビルが日本でも12歳以上の小児に保険適用となっている。DORA-1試験では、47例中47例の100%が完治(ウイルス消失)したが、日本人はそのうち4例と少数であったため、日本人小児に対するグレカプレビル・ピブレンタスビル治療の実臨床現場における有効性や安全性は不明な点が多く残されていた。
12~17歳のC型肝炎患者25例、100%が完治
そこで研究グループは、日本人の12~17歳のC型肝炎患者25例について、前方視的に全国多施設で調査し、小児C型肝炎に対するグレカプレビル・ピブレンタスビル治療の実臨床現場(Real-World)における有効性と安全性を検証した。C型肝炎の完治(ウイルス消失)は、規定の治療期間終了後12週時まで血液検査でC型肝炎ウイルスが同定されないことで判断した。
その結果、対象の25例中24例(96%)は初回治療で完治(ウイルス消失)し、初回の8週間の治療でウイルス消失しなかった1例も、2回目の治療としてグレカプレビル・ピブレンタスビルを12週間再投与したところ完治(ウイルス消失)したため、最終的に25例中25例の100%が完治(ウイルス消失)した。また、対象患者25例中23例の薬剤耐性変異(Resistance-Associated Substitution:RAS)を遺伝子解析で調べたところ、成人同様に複数の遺伝子変異を認めた。
治療後12週時で肝機能改善を認め、成長に悪影響はなし
さらに、治療前と治療後12週時の血液検査・身長・体重を比較検討した。肝臓の炎症を示すALTとGGT(γ-GTP)、肝臓の炎症や線維化を示すM2BPGiの3項目全てが、治療後に統計学的有意差(P<0.05)をもって低下していたことがわかった。この結果は、治療により肝臓の炎症や線維化が改善したことを示唆している。
以前、小児C型肝炎に対する治療として使用されていたインターフェロンは、成長(身長や体重の伸び)を抑制する報告があったため、今回の研究では治療前後の成長の変化も検討した。その結果、身長や体重の伸び、肥満度(body mass index:BMI)の低下はなく、治療が小児の成長に悪影響を及ぼさないことがわかった。全例が予定治療期間を完遂でき、途中で治療中止となる副作用は認めなかった。
同様の手法で3~11歳のC型肝炎に対する調査研究を開始
今回の研究により、日本人の12~17歳のC型肝炎患者に対するグレカプレビル・ピブレンタスビル治療は、実臨床現場においても有効性と安全性が高いことが明らかになった。日本の小児C型肝炎患者では、小児期に肝硬変や肝がんに進展することはないと研究グループは過去に報告している。「小児期にグレカプレビル・ピブレンタスビルで治療を行い完治(ウイルス消失)できれば、C型肝炎ウイルスが原因の肝硬変や肝がんを、近い将来に撲滅できる可能性があると考えられる」と述べている。
なお、3~11歳のC型肝炎患者に対するグレカプレビル・ピブレンタスビルの国際共同試験(DORA-2試験)の結果を踏まえ、2022年に日本でも3~11歳に対しても保険適用となった。研究グループは、今回の研究と同様の手法で、3~11歳のC型肝炎に対するグレカプレビル・ピブレンタスビルの有効性と安全性の調査研究を開始している。
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