ホルモン注射で男女の性欲が高まる?
性欲減退に悩む人に、新しいホルモン注射が役立つかもしれない。キスペプチンと呼ばれるホルモンの注射により男性と女性の性欲を高められる可能性が、英国の2件の研究で示唆された。キスペプチンは、脳の視床下部のニューロンから放出されるペプチドで、生殖機能の制御において中心的な役割を果たすと考えられている。これらの研究結果は、「JAMA Network Open」に2月3日掲載された。
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1件目の研究は、英インペリアル・カレッジ・ヘルスケアNHSトラストのAlexander Comninos氏らが、性的関心興奮障害(HSDD)の女性40人を対象に実施したランダム化比較試験(RCT)である。対象者には、2回にわたってキスペプチンとプラセボを投与した。投与方法は、まず半数にキスペプチンを、残る半数にプラセボを投与し、その後、1カ月以上の間隔を空けた2回目の投与時には投与内容を入れ替えるというものだった。いずれも投与時に、性的な動画や魅力的な顔写真を対象者に見せ、脳活動を機能的MRI(fMRI)で測定した。また、複数の調査票を用いて性欲と性的興奮の心理・行動面での変化を調べ、さらに、血液検査によりキスペプチンや黄体形成ホルモン(LH)などのホルモンレベルを測定した。
両群ともに16人ずつの計32人(平均年齢29.2歳)が試験を完了した。その結果、fMRIから、キスペプチンが投与された女性では、性的な関心や魅力的な顔への関心に関わる脳領域の活性が高まることが示された。また、性欲の低さに対する悩みが大きい女性では、キスペプチンの投与により、性的な動画に反応して、女性の性欲に関わる重要な脳領域である海馬の活性化が認められた。さらに、魅力的な男性の顔に反応して、キスペプチンが後帯状皮質(恋愛や認知的処理能力に関わる)を活性化するほど、対象者の性的嫌悪が減少することも確認された。重要なことに、キスペプチンを投与された女性では、プラセボを投与された女性と比べて、「よりセクシー」な気分になることを報告した。
2件目の研究は、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)内分泌・代謝学分野のWaljit Dhillo氏らが、HSDDの男性37人(平均年齢37.9歳)を対象に実施したRCTである。このRCTも前述のRCTと同様、7日間の間隔を空けてキスペプチンとプラセボの両方を対象者に投与するクロスオーバーデザインを採用した。また、血液検査でのホルモンレベルの測定と調査票を用いての心理・行動的評価も行った。性的刺激は性的動画の視聴とした。
その結果、キスペプチンを投与された男性では、性的な動画を視聴している間に、性的な関心に関わる脳のネットワークの重要な部位での活動が大幅に高まり、プラセボと比較して陰茎硬度が最大56%増加することが確認された。また、1件目のRCTと同様に、キスペプチンは性欲減退に悩んでいる男性の主要な脳領域により大きな効果をもたらすことが確認された。さらに、キスペプチン投与により「セックスに関する幸福度」が改善することも明らかになった。
こうした結果についてComninos氏は、「キスペプチンは、女性と男性の両方に効果をもたらす点が非常に素晴らしい」と話す。
ただし、HSDDに対するキスペプチンを用いた治療はいまだ実験段階にあり、より多くの人を対象にした試験でも同じ結果が得られるのかを確認する必要がある。Comninos氏はこの点を踏まえた上で、「5〜10年後には、性欲減退に悩む男性と女性に対する治療としてキスペプチンが用いられるようになるかもしれない」との展望を示す。
米Hillsborough Townshipの産婦人科医であるCarolyn DeLucia氏は、「思い当たる理由もないのにパートナーとのセックスや自慰行為への興味を不意に失うのは珍しいことではない。しかし、それに対する効果的な治療法がないため、医師も多くの場合は治療を却下する」と現状について説明する。その上で同氏は、「研究が進めば、キスペプチンがこのような現状を大きく変える可能性がある。キスペプチンは、男性と女性双方の性欲を安全かつ心地よく高める初めてのホルモンとなるのではないか」と期待を示している。
▼外部リンク
・Effects of Kisspeptin on Sexual Brain Processing and Penile Tumescence in Men With Hypoactive Sexual Desire Disorder
・Effects of Kisspeptin Administration in Women With Hypoactive Sexual Desire Disorder
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