「硬さ」から物理的な力を受けた筋線維芽細胞がコラーゲンを過剰に産生するメカニズムは?
九州大学は2月9日、臓器の線維化をタンパク質VGLL3が促進することを世界で初めて見出したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院疾患制御学分野の仲矢道雄准教授ら、徳島大学先端酵素学研究所の小迫英尊教授、自治医科大学の田中亨教授、兵庫医科大学の大村谷昌樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
コラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質は、臓器に弾力やつや等を与えるため、さまざまな臓器や組織に適量存在する必要がある。しかし、さまざまな病気の際には、コラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質が臓器において過剰に産生されるようになる。その結果、臓器は硬くなり、その機能は大きく低下する。臓器におけるコラーゲンなどの過剰産生(線維化)は、新型コロナウイルス感染後の肺線維症や心筋梗塞、肝硬変、慢性腎不全、膵臓がんといった難治性がんなど、さまざまな臓器の病気の際に生じ、病気をさらに悪化させる。現在、線維化は先進国の全死亡原因の約45%に関与することが報告されている。しかし、線維化に対する決定的な治療薬は存在しない。従って、線維化の進行に重要な役割を担うタンパク質を同定し、そのタンパク質を狙った薬を開発することが期待されている。
病気の臓器において、筋線維芽細胞がコラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質を過剰に産生する。筋線維芽細胞がその周囲にコラーゲンを過剰に産生すると、細胞周囲にはコラーゲン線維が蓄積する。過剰なコラーゲン線維は硬いことから、筋線維芽細胞はそのコラーゲン線維から物理的な力を受ける。この物理的な力を筋線維芽細胞がその細胞表面を介して受け取ると、細胞内でシグナルが伝達され、筋線維芽細胞はコラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質をさらに産生するようになる。その結果、筋線維芽細胞の周囲はさらに硬くなり、またさらにコラーゲンが過剰産生されるという悪循環に陥る。これまで、物理的な力を受けた筋線維芽細胞がその細胞内においてどのようなメカニズムでコラーゲンを過剰に産生するようになるのかは、あまりわかっていなかった。
VGLL3がコラーゲンなどの産生促進、VGLL3欠損マウスで心筋梗塞後の心臓線維化軽減
今回、研究グループは、筋線維芽細胞が物理的な力を受けると、タンパク質VGLL3がその細胞内で細胞質から核へ移行し、コラーゲンなどの産生を促進することを見出した。また、VGLL3タンパク質を持たないマウスにおいては、心筋梗塞後の心臓の線維化が軽減されていたという。
VGLL3を標的とした新規治療法開発に期待
今回の研究で、物理的な力を受けた筋線維芽細胞がさらにコラーゲン産生するのに重要なタンパク質VGLL3を同定した。今後は、このVGLL3を標的とした線維化治療薬、治療法の開発が期待される。また、肺や腎臓、膵臓がんなど他の臓器の線維化にもVGLL3が関与するかについて調べ、VGLL3がこれら臓器の線維化においても標的分子となりうるかを検討したい、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・九州大学 プレスリリース