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fMRIを用いたうつ病の客観的診断支援法「脳回路マーカー」の有用性を確認-広島大ほか

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2023年02月14日 AM11:01

fMRIを用いたうつ病脳回路マーカーの信頼性と前向き汎化性を新規データで検証

広島大学は2月12日、2020年に発表したうつ病脳回路マーカーの再テスト信頼性と前向き汎化性を、脳回路マーカー完成後に取得した新規のデータを用いて行い、検証したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科の岡田剛准教授、岡本泰昌教授、(以下、)脳情報通信総合研究所の川人光男所長、酒井雄希主任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Affective Disorders」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

うつ病には脳回路の不調が関与していることが考えられているが、現在の医療現場では、気分の落ち込みや興味の喪失などのさまざまな症状を、詳細な問診によって評価することのみでうつ病を診断しており、客観的な生物学的検査法は確立されていない。

機能的MRI(functional MRI:)は高い空間解像度と時間解像度で、非侵襲的に検査を行うことが可能なことから、脳回路機能を反映したうつ病の客観的な診断支援法の開発を目指して、fMRIデータと機械学習(データのどの特徴量をどのように組み合わせると判別に有用かをコンピュータに学習させる)の手法を組み合わせた研究が世界中で行われ、有望な結果が報告されている。一方、これらの研究成果を用いて他施設で得られたfMRIデータから診断予測をしても、ほとんど再現できないことがわかってきた。この原因は、単一施設から得られた少数のデータに対して機械学習を適用すると、そのデータサンプルだけにしか通用しない特殊な学習をしてしまうためと考えられている。

研究グループは過去に、トラベリングサブジェクトを用いたハーモナイゼーション(被験者が各施設を訪問し、同一脳で施設が異なるとどれほどデータが変動するかという機種由来のバイアスを同定する方法)により、異なる複数施設で取得した安静時fMRIデータを均質な大規模データとして統合することでこの問題を解決し、複数の外部独立データに汎化性能を示すうつ病脳回路マーカーを開発した。

しかし、脳回路マーカーの汎化性能の検証に用いた外部独立データは、脳回路マーカーの開発前に取得したデータであり、脳回路マーカー開発後の新規のデータでの性能評価が課題となっていた。また、fMRIの測定値は、施設間差に加えて同じ人物でも測定間の変動が大きいことが、信頼性の高い脳回路マーカーの開発に対する障壁となっていた。そこで研究グループは今回、脳回路マーカー完成後に取得した新規のデータを用いて、その再テスト信頼性と前向き汎化性能の検証を行った。

診断情報をブラインドにして計算したうつ病確率を検討

うつ病患者47人と健常者39人を対象に、「3テスラMRI装置」を使用して、10分間の安静時fMRIの撮像を行った。うつ病の診断は担当医の臨床診断に加え、「Mini-International Neuropsychiatric Interview」を行って確定した。また、MRI撮像当日の各参加者の抑うつ症状を「Beck Depression Inventory-Ⅱ(BDI-Ⅱ)」の日本語版で評価した。

予測し得る誤差を補正する前処理を行った安静時fMRIデータに、全脳にわたる379の関心領域(ROI)からなるパーセレーションを適用し、参加者ごとに379のROIの全てのペアの前処理されたMRI信号値間の時間経過間の相関(脳機能的結合)を計算した。これらのデータに、以前の研究で作成された判別機(脳回路マーカー)を適用し、各参加者のうつ病確率を計算した。その際、広島大学で新たに取得されたfMRIデータを、診断情報なしでATRに送り、ATRで計算されたうつ病確率を広島大学で保管している診断情報と照合することで、うつ病確率の計算時に診断情報がわからない仕組みにした。このようにして計算したうつ病確率に関して検討を行った。

健常者を対象とした1年間隔の測定で、脳回路マーカーの信頼性を確認

健常者は1年間隔で2度のfMRI撮像を行っており、縦断的な比較が可能であったため、まず、健常者の同じ個人からの2セットのデータのうつ病確率から級内相関係数(ICC)を計算することにより、脳回路マーカーの再テスト信頼性を調べた。その結果、ICCは0.45で中程度の信頼性を示した(95%信頼区間=0.13–0.68; P=0.004)。

次に、全参加者のデータを用いてうつ病確率と抑うつの重症度(BDI-Ⅱスコア)の相関関係を調べたところ、うつ病確率と抑うつ症状の間には有意な相関関係があった(r=0.26、P=0.024)。最後に、うつ病確率が50%を超える場合を脳回路マーカーの結果がうつ病であるとして、脳回路マーカーの性能を評価したところ、判別精度は69.7%(感度72.1%; 特異度66.7%)と以前の研究と同等の精度が得られ、新規のデータでの前向き汎化性能が確認できたという。

10分間のfMRIの撮像で、うつ病の診断・治療選択に有用な情報が得られる可能性

脳回路マーカーをうつ病の診断支援法として実用化するためにはさまざまな課題があるが、現在、XNef社が広島大学、ATR、AMED等と連携しながら、PMDAと相談を重ねている。また、抗うつ薬の治療反応性との関連も含めて、さらなる臨床的エビデンスの確立のため、広島大学病院を含む8医療機関の多施設共同の特定臨床研究を、2022年10月12日より開始している。

「今後研究が進めば、安静状態での10分間のfMRIの撮像が、うつ病の診断・治療選択に多くの有用な情報をもたらすことができるようになると期待される」と、研究グループは述べている。

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