卵巣がん予防目的の卵管切除術を低リスク者にも推奨
卵巣がん研究アライアンス(Ovarian Cancer Research Alliance;OCRA)は1月30日、卵巣がんの低リスク者であっても、卵巣がんの予防を目的とした卵管の切除を、出産を終えた、より多くの女性に勧めるとの声明(コンセンサス・ステートメント)を発表した。
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声明では、卵巣がんの発症に関わる遺伝子変異のない女性であっても、出産を終えており、別の婦人科系の手術を予定している場合には、卵管の切除を考慮することを勧めている。OCRAによると、ほとんどの卵巣がん、特に進行の速いタイプのものは、卵管に発生することがエビデンスで示されているという。
なお、卵巣がんリスクの高い女性に対しては、出産を終えた後に卵巣がん予防を目的とした卵巣と卵管の切除(予防的卵巣卵管切除術)を受けることが以前から推奨されていた。
OCRA会長のAudra Moran氏は、「卵巣がんは比較的まれな疾患であるため、通常であれば、一般の人たちに向けた声明を発表することはない。われわれは、卵巣を持つ全ての人に自分のリスクの程度を把握してもらい、卵巣がん予防のために何ができるのかを知ってもらいたいと考えている」とニューヨーク・タイムズ紙の取材に対して話している。
OCRAは、卵巣がんに関する問題の一つとして、信頼性の高いスクリーニング検査がないことを挙げている。英国で実施された大規模臨床試験では、卵巣がんの早期発見を目的とした画像検査と血液検査によるスクリーニング検査は生存率を向上させなかったことが報告されているという。また、女性には、腹部膨満などの卵巣がんの症状に注意することが勧められているが、それが実際に早期発見に有効なのかどうかについては不明であるとも指摘している。
一方、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の婦人科がんサービスをかつて指揮したDianne Miller氏によると、同州では良性の婦人科疾患の治療目的で骨盤内手術を施行するときに卵管の切除も行う「日和見的卵管切除術(opportunistic salpingectomy)」が標準的な医療行為として行われているという。Miller氏は、「15年前、最も死亡リスクが高く、最も高頻度に生じる悪性度の高い卵巣がんは、卵巣よりも卵管から生じやすく、その後の進行も速いことが明らかになった」と説明。卵巣を残すことで閉経後も脳や心臓の健康が維持されやすくなるため、卵管切除は卵巣がんのリスクが平均的な人にウィン・ウィンの状況をもたらすとしている。
Moran氏は、乳がんや卵巣がんのリスクを高めるBRCA1とBRCA2遺伝子変異がある若い女性では、卵管に加えて卵巣も切除することがゴールド・スタンダードとなっているものの、「これらの女性は、早期閉経を回避するため、まずは卵管のみの切除を考えてみてもよいのかもしれない」と語ったとニューヨーク・タイムズ紙が報じている。なお、OCRAは現在、適格基準を満たした女性に、これらの遺伝子変異の有無を調べられる検査キットを無料で配布している。
卵巣がんリスクの高くない女性が、別の婦人科疾患の手術を受ける際に卵管切除を行うことに賛同を示している婦人科腫瘍学会(SGO)は、遺伝子検査へのアクセスを拡充すべきだと主張している。SGO会長のStephanie Blank氏はニューヨーク・タイムズ紙に、「予防目的での卵管切除は実験的な試みとみなされているが、科学的に理にかなった方法であり、非常に魅力的である」とコメント。また、「卵管と卵巣の切除と比べれば、卵管のみの切除の有効性は低いが、効果のないスクリーニングよりは優れた方法である」と話している。
米国がん協会(ACS)チーフ・サイエンティフィック・オフィサーのBill Dahut氏もニューヨーク・タイムズ紙にコメントを寄せ、「今回OCRAが推奨した内容を裏付ける良質なデータは豊富にある。日和見的卵管切除術を受けた人たちでは卵巣がんの発症率が低いことが示されている」と説明。また、「生物学的な観点から言えば、卵巣がんは発生部位を考慮して卵管がんに名称を変更し、今までとは異なる捉え方をすべきかもしれない」とも提言している。
▼外部リンク
・Ovarian Cancer Screening and Symptom Awareness Consensus Statement
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