医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 顔映像から浮腫の度合いを推定するAI技術を開発、世界初-NECほか

顔映像から浮腫の度合いを推定するAI技術を開発、世界初-NECほか

読了時間:約 2分38秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年02月13日 AM11:10

浮腫の状態を日常的に確認する技術の実現が期待されている

日本電気株式会社()は2月10日、疾患や体調の変化などにより皮膚組織に水分がたまる症状である浮腫()の度合いを、AIを活用して顔映像から推定する技術を開発したと発表した。この研究は、NECバイオメトリクス研究所の宮川伸也所長、筑波大学サイバニクス研究センターの鶴嶋英夫客員准教授(研究当時:筑波大学医学医療系 准教授)らの研究グループが、NECと筑波大学との共同研究として行ったもの。研究成果は、「IEEE Journal of Biomedical and Health Informatics」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

浮腫は、腎疾患や心疾患、肝疾患などさまざまな原因で生じるが、その患者数は透析34万人、心不全120万人と推定されている。浮腫の状態を日常的に確認する技術は、原因となる疾患の状態の変化を把握し、慢性期の悪化防止や早期発見につながるため、その実現が期待されている。

体重を教師データとし、高精度に事前学習+世界一の顔認証技術

今回、研究グループが開発した技術には、次のような特長がある。

(1)AIで推定モデルを作成し少量の患者個人の顔映像で推定可能
浮腫による顔の変化はごく僅かであり、患者ごとに違いが表れる部分が異なるため、利用する患者ごとに浮腫による顔の変化を学習し推定モデルを構築する必要がある。しかし、一人の患者から大量のデータを収集することは患者の負担が大きくなる。今回の技術では、複数の患者の顔映像を用いて、顔に表出するさまざまな浮腫の情報を抽出するAIモデルを事前に学習する。その際に、浮腫と相関のある体重を教師データとして用いることで、浮腫の有無や度合いを高精度に事前学習する方式を開発した。この事前学習したAIモデルをベースにすることで、利用する患者のデータが少量でも、その患者の浮腫に合わせたAIモデルを転移学習し、推定精度を高めることが可能となった。

(2)顔認証技術を応用した、スピーディで利便性の高い浮腫推定
同技術は、顔映像のみで浮腫の有無や、浮腫の度合いを推定することができる。人物の顔の検出には、米国国立標準技術研究所(NIST)が実施した認証技術のベンチマークテストで世界No.1となったNECの顔認証技術を応用することで、迅速かつ正確な検出を実現している。また、通常のカメラ映像で推定できるため、スマートフォンやタブレット端末が利用でき、高い利便性が得られる。

透析患者データで検証、正解率85%・体重変化の平均絶対誤差0.5kgで推定可能

今回、研究グループは、39人の透析患者データを用いて技術検証を実施。同検証では、透析患者は透析前/後において、浮腫の有/無の変化が生じることと、その際の体重変化が余分な体液の変化とみなせることに着目し、客観性のある教師データとして用いた。

39人から取得した約2万枚の画像を用いた検証の結果、正解率85%で浮腫の有無を判別し、体重変化の平均絶対誤差0.5kgで浮腫の度合いの推定が可能であることを確認した。この平均絶対誤差は、人が外観から判断するのが難しい浮腫の変化を判別できる水準であり、研究グループは、疾患の悪化の早期発見につながると考察している。

従来の体重測定による計測を代替できる精度、2024年度の実用化を目指す

従来、透析患者は浮腫の簡易計測手段として体重計を用いている。今回開発した、透析患者の顔映像から浮腫の度合いを推定する技術を検証した結果、従来の体重測定による計測を代替できる精度であることが確認された。このようにAIを活用して顔映像から浮腫を推定する技術は世界初だという。

NECと筑波大学は今後も連携し、同技術の向上のため更なるデータ集積を図るとともに、医療介護・ヘルスケア分野での具体的応用に関して探索していくとしている。また、NECでは2024年度の実用化を目指す。

「本技術は、スマートフォンやタブレット端末のカメラで撮影した顔映像で推定ができるため、外出先や車いすの利用者でも負荷なく利用ができる。さらに、場所や環境の制限をうけずにデータが取得できるため、食事や排泄による浮腫度合いの経時変化の分析などが可能となる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大