TDP-43標的のGapmer型アンチセンス核酸の開発
近畿大学は2月6日、神経難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)と前頭側頭型認知症(FTD)の発症に関与するタンパク質TDP-43の遺伝子を標的とした核酸医薬を開発し、疾患モデルマウスを用いてALSやFTDに対して治療効果をもたらすことを証明したと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(脳神経内科部門)の永井義隆主任教授、ライフサイエンス研究所の武内敏秀特任講師らの研究グループと、大阪大学大学院医学系研究科神経内科学の望月秀樹教授、神戸天然物化学株式会社(執行役員)医薬フロンティア部の閨正博部長、名古屋大学大学院医学系研究科の祖父江元特任教授(現:愛知医科大学学長)らとの共同研究によるもの。研究成果は「Molecular Therapy-Nucleic Acids」に掲載されている。
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ALSは全身の筋肉が急速に衰えていく神経疾患、FTDはアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の次に多い変性性認知症である。これらの神経難病は、まだ原因が十分には解明されておらず、根本的な治療法も開発されていない。近年、ほぼすべてのALS患者と半数程度のFTD患者において、TDP-43というタンパク質が神経細胞内で異常に凝集・蓄積したり、細胞内で通常とは異なる場所に存在したりすることが明らかとなっている。そこで研究グループは、ALSおよびFTDの治療法開発を目的として、TDP-43の遺伝子を標的としたGapmer型アンチセンス核酸の開発を行った。
mRNAに結合し、タンパク質合成を抑制するよう設計
Gapmer型アンチセンス核酸は20塩基長程度で、両端に修飾核酸を数塩基、中央にDNAを配置した構造の核酸である。これが標的タンパク質のmRNAに結合すると、細胞内の特殊な酵素によりmRNAが切断され、標的タンパク質の合成が抑制されると考えられている。
まず、Gapmer型アンチセンス核酸のRNAへの結合性および生体内安定性を高めるため、ENAs(2’-O,4’-C-ethylene nucleic acids)と呼ばれる修飾核酸を用いた。また、TDP-43の細胞内発現量を効率よく減少させる標的配列を見つけるため、TDP-43のmRNA全長に対し、標的配列の異なるGapmer型アンチセンス核酸を多数設計し、培養細胞を用いてひとつずつ検証を行った。その結果、得られたGapmer型アンチセンス核酸は、培養細胞にてTDP-43の発現量を大きく減少させることがわかった。
モデルマウス脳室内に単回投与で、TDP-43異常凝集や疾患関連の行動異常を抑制
ALSおよびFTDモデルマウスで検証したところ、脳室内への単回投与で3か月間にわたりTDP-43発現を抑制することが確認された。さらに、この核酸を投与されたモデルマウスは、神経細胞内のTDP-43の異常凝集や局在異常が抑制されるとともに、運動機能障害や不安行動などの疾患と関連する行動異常が抑制されるなど、長期にわたり治療効果を示すことが確認された。
今後、毒性・安全性に影響しないかどうかを十分に検証
研究により、TDP-43を標的とした核酸医薬がALS/FTD治療に有効である可能性が示された。一方、TDP-43は細胞内で重要な働きを持つ分子であるため、今回の核酸医薬が毒性・安全性に影響しないかどうかを十分に検証する必要がある。「臨床応用する上での課題を解決し、ヒトでの臨床研究を実施することで、ALSやFTDに対する新たな治療法の開発につながると期待される」と、研究グループは述べている。
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