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RP58ハプロ不全、興奮性シナプス異常が知的障害の原因であると示唆-都医学研ほか

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2023年02月07日 PM12:16

知的障害の原因と考えられるRP58、ヘテロ欠損マウスの異常は未検出だった

東京都医学総合研究所は2月1日、/ZBTB18ハプロ不全による知的障害の病理機序が、興奮性シナプスの障害である可能性が示唆されたと発表した。この研究は、同研究所旧神経細胞分化プロジェクトの平井清華外部研究員、睡眠プロジェクト三輪秀樹協力研究員(兼 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神薬理研究部室長)、新保裕子研究技術員(兼 神奈川県立こども医療センター臨床研究所研究員)、岡戸晴生シニア研究員、フロンティア研究室脳代謝制御グループの平井志伸主任研究員、、神奈川県立こども医療センター臨床研究所、日本大学歯学部らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Psychiatry」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

知的障害は発達期に生じる障害で、知的能力と適応能力に制約を伴う状態であり、人口の1〜3%が何らかの障害を有していると考えられている。環境、栄養、外傷、代謝、中毒などさまざまな原因があるが、遺伝子変異、染色体異常という先天的な原因で生じるケースも多く、例えば、1q43-44微小欠失症候群では、その責任遺伝子の一つとして転写抑制因子RP58が同定されている。また、近年、知的障害の患者の中からRP58遺伝子自体の変異も同定されている。これらの患者では、RP58の機能が減弱していることが想定される。さらに、RP58のナンセンス変異の患者が知的障害を示す症例が報告され、RP58ハプロ不全が知的障害の原因になることが明らかとなった。

一方、研究グループは、これまでモデル動物を用いてRP58遺伝子の脳での機能解析を行ってきた。RP58はBTBドメインとZnフィンガーモチーフを持つ転写抑制因子であるが、胎仔期から大脳皮質に高発現し、大脳皮質のグルタミン酸作動性ニューロンの分化、放射状移動、成熟に必須のタンパク質であることを明らかにしている。そして、RP58の転写抑制の標的遺伝子として、Id1-4、Ngn2、Rnd2を同定してきた。RP58の完全欠損マウスは、大脳皮質形成不全を示し、出生直後致死であるが、ヘテロ欠損マウスでは出生時、著明な変化がなく、これまで異常は検出できなかった。

RP58ヘテロ欠損マウス、知的障害に相当する行動特性や脳梁形成不全を確認

RP58ハプロ不全は、RP58遺伝子の欠失やミスセンス変異、ナンセンス変異のために、RP58の機能が不十分になることが原因で、知的障害を含む神経発達症(発達障害)を生じると考えられている。今回の研究では、RP58ハプロ不全がシナプス異常を示すことについて、モデルマウスを用いて実証した。

研究グループはまず、RP58ハプロ不全のモデル動物として、RP58ヘテロ欠損マウスを作製した。RP58ヘテロ欠損マウスではRP58の発現がmRNA、タンパク質ともに半減していた。クリューバーバレル染色で、脳梁の尾側の形成不全を見出した。その他の脳の構造に著明な変化は見出せなかった。また、大脳皮質層形成を浅層マーカSatb2、深層マーカCtip2の染色で検証したが、有意な変化は見られなかった。

次に、上記モデルマウスの行動解析を行い、知的障害類似異常を見出した。具体的には、自発的な活動性の亢進、不安亢進、運動学習能低下、ワーキングメモリー低下が明らかになった。また、水迷路テストでは、空間学習能は正常だったが、逆転学習能の低下が見出され、認知記憶能の柔軟性の低下が示唆された。これらの結果は、知的機能の低下、適応能力の低下に相当すると考えられる。RP58ハプロ不全患者では、軽度から重度の知的障害、運動発達遅延、注意欠陥多動性障害、自閉的行動、常同行動などを示す。このモデルマウスは、患者で見られる症状とおおむね共通と想定される行動特性を示すことから、本疾患のモデルマウスとして妥当と考えられた。

記憶学習に重要なグルタミン酸シグナル伝達に異常

また、作製したモデルマウスは、グルタミン酸シグナル伝達の異常を示すことがわかった。大脳皮質のウエスタンブロット解析の結果、AMPA受容体GluA1-4の中でGluA1のみ半減していた。NMDA受容体では、GluN1およびGluN2Bには変化はなく、成熟したスパインに発現するGluN2Aは半減していた。一方、多くのニューロンに存在するNeuN、グルタミン酸作動性シナプス後部に存在する足場タンパク質Homer、シナプス前部に存在するVGluT1に変化はなかった。

上記の脳のシナプス機能を解析し、NMDA受容体応答不全、シナプス長期増強の飽和度の低下を見出した。具体的には、海馬のスライスを作製し、CA1錐体細胞の電気生理学的解析により、AMPA受容体を介した興奮性シナプス後電位のシナプスの入力―出力関係は正常で、また、ペアパルス比、頻回刺激による応答増強に変化はないことがわかった。このことから、シナプス前部からのグルタミン酸放出に変化はないことが示された。パッチクランプ膜電位固定法によりNMDA受容体とAMPA受容体応答の比率に変化はないが、NMDA受容体を介するシナプス後電流量が、最も大きくなる膜電位において、低下していることを見出した。そこで、NMDA受容体が関与する長期増強を調べたところ、頻回刺激1回による長期増強には差がないが、頻回刺激を繰り返した場合、長期増強がより低率で飽和してしまうことを見出した。これは、記憶学習の可塑性の容量が小さいことを示し、可塑性低下の基盤になっていることが示唆される。

樹状突起のスパイン形態解析により、成熟スパインの形態異常を確認

さらに、樹状突起のスパイン形態を解析したところ、成熟スパインの形態異常が見出された。スパインの形態を見るために一部のニューロンのみに蛍光タンパク質GFPが発現するマウス(Thy1-GFPマウス)を用いて解析した。海馬のCA1錐体細胞のスパイン密度に変化はなかった。スパインの長さとヘッドの幅で4タイプにスパインを分類しても、4タイプの比率に変化はなかった。しかしスパインヘッドの幅の大きいタイプ(太いスパイン)同士で比較すると、RP58ヘテロマウスではスパインヘッドの幅がより小さく、スパインの長さがより短いことが明らかとなった。一方、スパインヘッドの幅が小さいタイプ(細いスパイン)同士の比較では差はない。スパインヘッドの幅の大きいタイプにはマッシュルーム型、スタッブ型という成熟型スパインと考えられているスパインが含まれていることから、成熟スパインの形態異常と考えられる。

RP58ハプロ不全患者の治療法開発につながると期待

今回の研究から、RP58の発現量の不足が認知機能低下を引き起こすことが実証され、その原因として、興奮性ニューロンの興奮性シナプスのスパイン成熟不全であることが示唆された。このことは、RP58ハプロ不全患者の認知機能障害の予防法、治療法の開発の糸口になると期待される。しかし、RP58発現低下がどのようなメカニズムでシナプス機能不全を引き起こしているか、その機序は不明である。「今後、RP58の標的遺伝子を同定することにより、その機序を解明することが希求され、その際にこのモデルマウスが有用と考えられる」と、研究グループは述べている。

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