血清アミロイドαに依存的な急性期応答と炎症の関係は?
東北大学は2月3日、血清アミロイドαを完全に失わせたマウスを作製し、血清アミロイドαががんによる肝臓の炎症に重要なのかどうかを検証した結果を発表した。この研究は、同大加齢医学研究所の河岡慎平准教授(兼務:京都大学医生物学研究所)と京都大学医学部附属病院乳腺外科の河口浩介助教の研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Immunology」に掲載されている。
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進行がんは、身体にさまざまな悪影響を及ぼす。急性期応答や炎症はその例の一つであり、がん悪液質の症状として記載されることもある。急性期応答と炎症は同時的に観察されることが多く、また両方の現象に関わる遺伝子群の発現量に強い相関が認められることから、両者の因果関係が示唆されることがある。例えば、急性期応答タンパク質である血清アミロイドαを免疫細胞に添加すると、免疫細胞が活性化される、という研究がある。一方で、がんをもつ個体における急性期応答(特に、血清アミロイドα)と炎症の因果関係に関する理解は限定的だ。
今回研究グループは、主要な血清アミロイドαを失わせたマウスを作出し、このマウスを用いて血清アミロイドαに依存的な急性期応答と炎症の関係を調べた。
マウス4T1乳がんモデル、肝臓炎症は血清アミロイドαに依存せず
これまでに得られたデータを活用して研究をした結果、マウス乳がんモデルである4T1モデルにおいて、血清アミロイドαと炎症の間に強い相関があることを確認。他のグループからの研究の結果ともよく符号する結果であり、研究グループは血清アミロイドαと炎症の間に因果関係があるのではないかと考えて、血清アミロイドαを完全に失わせたマウスを作製した。
同マウスにがんを移植し、肝臓のトランスクリプトームやフローサイトメトリーで肝臓の炎症状態を調べたところ、血清アミロイドαを無くしたマウスとそうでない野生型マウスの間にほとんど違いがない、ということがわかった。このことから、少なくとも4T1乳がんが引き起こす肝臓の炎症には、血清アミロイドαは必要ないと考えられた。
骨髄でも、血清アミロイドαの強い寄与は確認されず
免疫細胞の多くは骨髄で造られる。そこで研究グループは、肝細胞で作られた血清アミロイドαが骨髄に作用しているのではないかと考え、骨髄についても肝臓と同様の解析を実施。しかし、骨髄についても、血清アミロイドαの強い寄与は確認されなかった。以上のことから、4T1乳がんが引き起こす肝臓や骨髄の免疫細胞の異常には、血清アミロイドαは関与しない、と結論づけられた。
以上の研究は1つのモデルで実施されたものであり、血清アミロイドαが重要な働きを示す実験モデルも存在すると考えられる。4T1乳がんモデルにおいて血清アミロイドαの不在を埋めるタンパク質を発見することが、がんに依存的な肝臓の炎症という病態を理解する上で重要だと研究グループは考察している。
今後、がん依存的な肝臓炎症を制御する血清アミロイドα以外の因子同定へ
血清アミロイドαは、知名度の高い分子であり、さまざまな文脈でその重要性が示唆されてきた。一方、今回の乳がんモデルのように、血清アミロイドαが重要ではない文脈があるということを認識しておくことは、現象を正しく捉えるためにとても重要だという。今後は、この研究を活かして、がんに依存的な肝臓の炎症を制御する血清アミロイドα以外の因子を同定するとともに、他のがんモデル、または実臨床において、血清アミロイドαやその他の因子がどのように病態に関わるかを明らかにしていく予定だ、と研究グループは述べている。
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