不安をあるがままに受け入れるマインドフルネス、神経性やせ症への有効性を確認
京都大学は2月2日、マインドフルネス瞑想によって神経性やせ症患者の不安が低減すること、また不安に関わる脳領域の活動が変化することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の野田智美研究員、磯部昌憲助教、医学研究科の村井俊哉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BJPsych OPEN」にオンライン掲載されている。
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神経性やせ症は摂食障害の一つで、拒食、過食嘔吐、体重増加への強い不安、極度の低体重などを特徴とする女性に多い精神疾患である。ダイエットを機に発症することもある身近な病気だが、治療法が確立されているとは言い難い現状がある。一方、近年マインドフルネスを精神科治療に用いる試みが盛んに行われ、うつ病や不安障害などで有効性を示す知見が蓄積されている。
マインドフルネスは「今ここでの体験のあるがままの気付き」を表す概念で、1)「今、ここ」に心があること、2)良い・悪いといった評価をせずあるがままに見ていること、という2つの要素からなる。そしてそのような状態に近づくための方法として瞑想を行う。しかし、神経性やせ症においてはマインドフルネスの有効性は不明だった。研究グループは、神経性やせ症患者が「体重増加に対する不安」を拒食や過食嘔吐によって回避しようとしている可能性に着目し、マインドフルネスによって不安をあるがままに見る、つまり受け入れる方法を学ぶことができれば効果的な治療法の確立に大きく貢献できると考え、研究を行った。
毎日5分から20分の瞑想を4週間実施、脳活動の変化を特定
同大の医学部附属病院に通院中の神経性やせ症の患者に、マインドフルネス瞑想を用いた4週間の介入プログラムに参加してもらった。プログラムは週1回、90分実施し、毎日5分から20分の瞑想を行ってもらった。プログラムの前後で心理尺度による不安の測定、および体重増加への不安を誘発する刺激を用いた感情調節課題を行なってもらい、課題中の脳活動の変化を機能的磁気共鳴画像(functional magnetic resonance imaging:fMRI)を用いて検討した。その結果、介入後に心理尺度の不安スコアが低下し、さらに感情をありのままに受け止めようとしている時に、下記の脳領域で活動低下が認められた。
<活動が低下していた領域>
扁桃体、前部帯状回(感情の処理に関わる)
楔前部、後部帯状回(マインドワンダリング、「自己」に関連する思考に関わる)
前頭眼窩回、中前頭回/下前頭溝、尾状核、被殻(強迫観念、強迫行為に関わる)
時間の経過による変化を否定できないものの、治療応用に向けた重要な科学的根拠
今回の研究の結果はマインドフルネスによって神経性やせ症患者の不安の受容が促進されたことを示唆しており、4週間という短期間のマインドフルネストレーニングで主観的な不安だけでなく脳活動の変化が認められたことは、マインドフルネスの神経性やせ症の治療応用に向けて重要な科学的根拠を提供している。しかし一方で、介入しなかった群との比較がないために、今回認められた変化は単に時間の経過によるものである可能性を否定できない。「今後、8週間の長期間の介入を用いた研究や、ランダム化比較試験によって神経性やせ症におけるマインドフルネスの効果について精緻な検討を行う」と、研究グループは述べている。
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