各国のサーベイランス情報より、新型コロナ流行下のインフル消失・再流行に関わる要因を検討
東北大学は2月2日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下の国別のインフルエンザサーベイランスデータを用いて、感染症対策とインフルエンザ流行の関係を解析した結果を発表した。この研究は、同大加齢医学研究所・認知機能発達(公文教育研究会)寄附研究部門の竹内光准教授・川島隆太教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Viruses」電子版に掲載されている。
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COVID-19のパンデミックの際、世界の多くの地域で、一時的にインフルエンザの流行がほとんど見られなくなった。COVID-19に対するソーシャルディスタンス、ロックダウン、マスクの使用などの非薬理学的介入(NPI:non-pharmaceutical intervention)が原因であったと推測されている。また、COVID-19が蔓延していない地域でもインフルエンザは消失していたことから、こうしたインフルエンザ消失はウイルス干渉では説明できないことが血清学の観点から指摘されている。
一方、地域によっては、2020年に比較的早くインフルエンザが再流行したことが指摘されていた。米国では2021年冬にインフルエンザが再流行したのに対し、日本では2021年冬にインフルエンザが再流行していない等、国による違いが明らかに存在している。このようなインフルエンザの再流行は、NPIが大幅に緩和された後に発生しており、NPI緩和がインフルエンザ再流行の背景にあると指摘されている。これまで、このようなNPIの地域差とインフルエンザの世界的な消滅・再流行の相関を統計的に示した研究はなかった。
研究グループはこれらの問題を明らかにするため、WHOのグローバル インフルエンザ監視および対応システムおよび公開されているNPI情報を用いて、インフルエンザの消失・再流行に関わる要因の特定に向けた検討を実施。インフルエンザによって毎年世界中で多数の死亡者が出ていたこと、また新型インフルエンザの流行が懸念されていることから、どのような要因が世界からインフルエンザが消失し再興したことに関係していたかを明らかにすることは重要だとしている。
インフル検出率と各国のマスク使用率などとの関連、4シーズンで解析
COVID-19パンデミック下の国別のインフルエンザサーベイランスデータを用いて、各国のパンデミック前のベースラインと比べたコロナパンデミック下のインフルエンザの検出数の比率を国別4つのシーズンで計算し対数化。4つのシーズンは2020年と2021年の中盤からの例年インフルエンザが流行しやすい12週間(北半球の夏季)、2020年と2021年の終盤からの例年インフルエンザが流行しやすい12週間(北半球の冬季)で、それぞれの時期にパンデミック前にインフルエンザが流行しており、一定程度のサーベイランスをパンデミックでも継続して解析対象とした。全シーズンでこの条件を満たす合計109か国を対象とした。
対象期間中のNPIのマスク使用率、人的接触の程度、規制政策の総合的な厳しさの指標として、Our world in dataなどのオープンデータを使用。人的接触の程度の評価は、収集した携帯電話の移動データによって測定し定量化された、場所ごとのベースラインのレベルに対する人的接触の減少に基づいて行われた。規制政策の総合的な厳しさは学校閉鎖、職場閉鎖、公共行事の中止、人の集まりの制限、公共交通機関の閉鎖、自宅待機の要求、広報活動、内部移動の制限、国際的な旅行規制から評価されている。
パンデミック下の検出率とNPIの関連は重回帰分析により3つのNPI指標と陽性化を調べた検体数がベースラインからどれだけ変化したかの指標を対数化したものを補正し実施。パーミュテーション法と呼ばれる統計手法によりP値を計算した。また、検査をした検体数の中での陽性率がどれだけベースラインから変化したか、パンデミック下でCOVID-19による累積死亡数と累積超過死亡の乖離が4割以下に抑えられている国(COVID-19による死亡をフォローし一定程度、計数していると想定される国々)を選択し、期間中のCOVID-19の陽性数や死亡数との関連も評価した。
インフル検出率の低さ、3シーズンでマスク使用率の高さと関連
研究の結果、2020年半ばのシーズンでは、赤道周辺および南半球のほとんどの国で、マスクの使用率、人的接触の減少、または総合的規制政策のいずれかの高い感染対策が実施されており、ほとんどの国でインフルエンザがパンデミック前に比べて激減していた。2020年末、2021年末、2021年半ばのシーズンを用いた解析結果は、感染対策の厳しさには国別に大きな違いがあり、すべてのシーズンで高いマスク着用率がインフルエンザの消滅の程度と関連していた。2020年半ばのシーズンでは、統計的有意差はないものの、マスク使用率とインフルエンザ検出率に負の相関がある傾向が見られた。
人的接触の低さは2シーズンで関連、規制政策厳格指数の高さは1シーズンで弱い関連
人的接触のレベルが低いことは、2020年末からのシーズンにはインフルエンザの消滅率と強い関連を示し、2021年末からのシーズンでは弱い関連を示した。複合的な規制政策のレベルが高いことは、2020年末からのシーズンにおけるインフルエンザ消失との弱い関連があった。陽性数がパンデミックの前からどう変化したかの代わりに、陽性率がどう変化したかの指標を用いた解析は結果に大きな影響を与えなかった。
4シーズン中12週のインフル消失、直接関係していたのはNPIだと示唆
また、2020・2021年の冬にCOVID-19による死亡を十分に計数していた国の中では、COVID-19による12週間の総陽性数や総死亡数は、インフルエンザのパンデミック前からの検出率とは有意な関連は見られず、一方で上述のようにNPIとは頑健な関連が見られた。このことから4シーズンの期間中の12週にわたるインフルエンザの消失にはCOVID-19の流行が直接、関係していることを示唆せず直接関係していたのはNPIであることを示唆する結果だったとしている。
COVID-19パンデミック下でインフルが消えた背景にNPI、実証データに基づき示唆
同研究成果は、パンデミック下のインフルエンザの消失にNPI、特にマスク使用や人的接触の低下が関係していたことを示すものだ。マスクの感染症への効果は大規模な集団を用いたランダム化比較試験やメタアナリシスを通して実証されていたが、ソーシャルディスタンシング等のNPIの影響もソーシャルディスタンシング政策が厳しいコミュニティに居住している個人は、感染リスクが低いことを示す研究などによって示されてきた。今回の研究は、それらを国レベルの単位で疫学的に示すとともに、COVID-19のパンデミック下でインフルエンザが消えた背景にNPIがあることを実証データに基づき示唆したもので重要だ、と研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース