在胎36週未満の出生児へのパリビズマブ予防投与の効果は?
富山大学は1月31日、早産で出生した児は、正期産で出生した児と比較して、感染症に罹患しやすいかどうかを検討し、パリビズマブ投与が、早産児の下気道感染症の罹患頻度を正期産児と同程度まで低下させる可能性が示唆されたことを発表した。この研究は、同大附属病院・周産母子センターの田村賢太郎講師らの研究グループが行ったもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
日本では約5~6%の新生児が在胎37週未満の早産で出生する。早産で出生した児の多くは、新生児集中治療室(NICU)に入院し、呼吸や栄養などの治療を必要とする。新生児医療の進歩により、特に在胎28週未満の超早産児の生存率はこの20年間で向上しているが、敗血症や肺炎などの感染症は依然としてNICU入院中の死亡や合併症の原因となる疾患だ。NICU退院後も、感染症は早産児の健康を脅かす疾患の一つである。特に、気管支炎や細気管支炎、肺炎などの下気道感染症は、2歳未満の乳幼児の入院の主な原因であるが、特に超早産児は、正期産で出生した子どもと比較して、呼吸器感染症による再入院率が高いことが海外から報告されている。
これまでに早産と正期産で出生した子どもにおける、一般的な小児感染症の罹患頻度についての研究はまだ十分には行われていない。また、2歳未満の乳幼児の下気道感染症の原因の一つにRSウイルスがあるが、日本では在胎36週未満で出生した子どもには、RSウイルス感染症の重症化予防にパリビズマブ(製品名:シナジス)の予防投与が行われている。しかし、パリビズマブの普及を加味した大規模研究はほとんど行われていなかった。
エコチル調査参加の6万7,282組を対象に調査
今回研究グループは、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加している母親とその子ども6万7,282組を対象として、早産で出生した児は、正期産で出生した児と比較して、一般的な小児感染症に罹患しやすいかどうかを調べた。また、下気道感染症およびRSウイルス感染症におけるパリビズマブの効果を調べた。
解析では、在胎週数から早産児と正期産児に群別し、1歳および2歳時の各種感染症罹患歴(上気道炎、下気道炎、中耳炎、尿路感染症、胃腸炎、突発性発疹症、ヘルパンギーナ、手足口病、水痘、インフルエンザウイルス感染症、RSウイルス感染症、アデノウイルス感染症)を比較した。母体因子の他、母乳育児、集団保育、パリビズマブ投与を調整変数として、多重ロジスティック回帰分析を行った。
下気道感染症罹患リスクは早産児>正期産児、パリビズマブ投与の加味で罹患頻度に有意差はなくなる
その結果、母に関連する因子および母乳育児と集団保育で調整すると、早産児の下気道感染症罹患のリスク比(95%信頼区間)は、1歳時1.22(1.05–1.41)、2歳時1.27(1.11–1.47)と正期産児と比較して有意に高かった一方、パリビズマブ投与を調整変数に加えた解析モデルでは、下気道感染症の罹患に有意差がなくなることが明らかとなった。一方、この効果はRSウイルス感染症では認められなかった。
上気道炎や胃腸炎、その他小児感染症、正期産児と比べて罹患リスクは高くはない
今回の研究により、早産で出生した児は、正期産で出生した児と比較して、1歳および2歳時の下気道感染症の罹患リスクが高いが、パリビズマブ投与を加味すると、罹患頻度に有意差がなくなることが明らかになった。また、上気道炎や胃腸炎など、その他の一般的な小児感染症に関しては、早産児が正期産児と比べて罹患リスクが高いということはなかった。
RSウイルスは、乳幼児の下気道感染症の原因として最も多いウイルスの一つで、特に早産で出生した子どもは、RSウイルスに感染すると下気道感染症を発症して重症化しやすいとされている。日本では在胎36週未満で出生した子どもは、RSウイルス流行時期に条件を満たせばパリビズマブの予防投与が保険診療で認められている。研究から、早産児へのパリビズマブの予防投与は、下気道感染症の発症リスクを正期産児と同じ程度にまで下げられる可能性が示唆された。一方、研究の限界として、感染症の重症度や入院率は評価できていないこと、より在胎週数の小さな早産児に関する検討はできていないことが挙げられる。
また、研究グループは一般に向け、「早産で出生したご両親の中には、退院してからも感染症にかかりやすいのではないかと不安をお持ちの方がいらっしゃるが、今回の研究からは、早産で出生した子どもは、必ずしも一般的な小児感染症の罹患頻度が多くはなく、過度に心配をする必要はないと考えられる。また、超早産児で出生した子どもや在宅酸素を使用している子どもは、重症化するリスクは高いので、いつもと違う様子があれば、小児科医に相談を」、と呼びかけている。
▼関連リンク
・富山大学 プレスリリース