病態におけるBLT1・ロイコトリエンB4産生酵素の役割は?
順天堂大学は1月25日、半月体形成性糸球体腎炎発症における生理活性脂質ロイコトリエンB4の役割を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科腎臓内科学の塩田遼太郎大学院生、鈴木祐介教授、生化学・細胞機能制御学の城(渡辺)愛理助教、横溝岳彦教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Faseb J」に掲載されている。
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急速進行性糸球体腎炎は、腎糸球体に急速かつ激烈な炎症が生じ、数週から数か月の経過で腎機能が急速に低下して腎不全に至る予後不良の症候群。生命予後、腎予後ともに不良で維持透析へ移行する症例も多く、ステロイドや免疫抑制剤など副作用の強い薬剤で治療されている。組織学的には、糸球体内に半月体と呼ばれる特徴的な構造物を認め、半月体形成性糸球体腎炎とも呼ばれる。半月体形成の機序は不明だが、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)や抗糸球体基底膜抗体といった自己抗体が陽性の症例や免疫複合体が沈着する病型が多く、免疫学的機序を介して起こるものと考えられている。同疾患では、初期に好中球と呼ばれる白血球が腎糸球体に集積することが発症の引き金になることが知られているが、この好中球集積を引き起こす生理活性物質は同定されていなかった。
研究グループは、これまで生理活性脂質とその受容体の研究を行ってきた。1997年に好中球の走化性因子として知られていたロイコトリエンB4に対するGタンパク質共役型受容体の遺伝子同定に成功し、BLT1と命名。その後、研究グループはBLT1遺伝子の欠損マウスを作製し、気管支喘息、尋常性乾癬、加齢黄斑変性症などのマウス炎症性疾患モデルにおいて、BLT1欠損が病態の軽減につながることを明らかにしてきた。今回の研究では、半月体形成性糸球体腎炎のマウスモデルを用いて病態におけるBLT1やロイコトリエンB4産生酵素の役割の解明を試みた。
病態モデルマウスで解析、早期の好中球浸潤・ロイコトリエンB4産生が発症に重要と判明
今回の研究では、まず抗糸球体基底膜抗体を含むヒツジ血清とヒツジのイムノグロブリンを投与することで、マウスに免疫複合体沈着、タンパク尿、糸球体障害を生じる半月体形成性糸球体腎炎を引き起こす病態モデルを確立。血清投与から6時間後という早期に好中球が糸球体に浸潤すること、好中球を枯渇させる処理を行うと糸球体腎炎が大きく軽減することを見出し、半月体形成性糸球体腎炎発症における早期の好中球浸潤の重要性を立証した。
さらに、好中球走化性因子の探索を行ったところ、血清投与の1時間後の腎臓で、ロイコトリエンB4が産生されていることが判明。免疫複合体を用いて好中球を刺激するとロイコトリエンB4が産生されることもわかった。
BLT1拮抗薬投与等によるロイコトリエンB4産生抑制が、予防・治療につながる可能性
そこで、ロイコトリエンB4産生に必須のロイコトリエンA4水解酵素欠損マウス、BLT1欠損マウスを用いて腎炎モデルを作製。野生型マウスと比較してタンパク尿、糸球体障害、腎線維化促進遺伝子の発現が低下した。また、血清投与後のマウスにBLT1拮抗薬を投与すると、糸球体腎炎が軽減。さらに、ヒトのさまざまな糸球体腎炎患者の腎生検サンプルを抗BLT1抗体で染色したところ、半月体形成性糸球体腎炎の代表的疾患であるANCA関連腎炎の患者の糸球体でより多くのBLT1陽性細胞が観察された。
以上の結果から、免疫複合体が好中球を刺激することでロイコトリエンB4が産生されて好中球を糸球体に誘導し、それが引き金になって糸球体障害が生じて急性腎炎が発症すること、このロイコトリエンB4産生を抑えたり、BLT1拮抗薬を投与したりすることで、半月体形成性糸球体腎炎の予防や治療につながる可能性があることが示された。
新規治療薬として、ロイコトリエンB4産生酵素阻害薬・BLT1拮抗薬に期待
今回、研究グループは半月体形成性糸球体腎炎の発症と増悪に、生理活性脂質ロイコトリエンB4が関わっていることを解明した。今回の発見から、半月体形成性糸球体腎炎の新規治療薬として、ロイコトリエンB4産生酵素阻害薬や、現在開発が進んでいるBLT1拮抗薬が用いられることが期待される、と研究グループは述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース