医療者33人にコロナ患者と家族への看取りケアについて聞き取り
京都大学は1月30日、新型コロナウイルス感染症の流行中(コロナ渦)の医療現場で、新型コロナウイルス感染症患者(コロナ患者)・その家族に対しどのようなケアが提供されたか、医療者の看取りケアの経験についてインタビュー調査および分析を行った結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科健康情報学分野の中山健夫教授、西村真由美研究員、静岡社会健康医学大学院大学社会健康医学研究科の森寛子准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「CHEST」オンライン版に掲載されている。
2020年からのコロナ禍において、感染拡大防止のために、コロナ患者、医療者、家族が隔絶された中で死を迎えるという、多くの医療者にとって経験のない看取りが相次いだ。この未曽有の臨床現場で、医療者は悩みながらもコロナ患者へ看取りケアを提供してきた。
研究グループは、現場でどのようなケアを提供したかについて、13都道府県33人のコロナ患者の看取りを経験した医療者にインタビューを行った。そして、語られた一語一語について分析を行った。これは、人々個々の行動や経験から、より一般的な意味を見出してゆく質的研究法の1つで、社会学や教育学で使われてきた研究法であるが、近年は医学研究でも取り入れられるようになっている。
「患者と家族のつながり支援」など4つのケアの要素
その結果、4つのケアの要素「患者との関係性の維持」「患者と家族のつながり支援」「意思決定の共有」「人間らしいエピソードの創出」と、51の実践の具体例が示された。具体的なケアの行為として、患者への積極的な声掛け、家族とのWebを使ったコミュニケーションや面会の支援、ICU日記等が示された。「患者と家族のつながり支援」としては、死を前にした患者から家族へのメッセージを聞き取るというケアが提供されていたことがわかった。
これらケアの要素と具体例は、コロナ感染により死を迎えることになった患者とその家族に対し、医療者はどのような看取りの支援をすればよいか、その手掛かりとなることが期待される。
「生きるための治療も並行して行っている医療者だけでは、負担が大きい」という声も
今回の研究はICUや集中治療の現場を対象とした結果であるが、コロナ患者の看取りは自宅や介護現場など多様な状況でも生じており、他にも必要なケアの要素が存在すると考えられることから、さらなる調査の必要性も示唆される。一方、聞き取りの中で、生きるための治療も並行して行っている医療者だけでは、負担が大きいという声も聞かれた。「海外や国内の一部では宗教者やボランティアによる看取りケアの協力体制がある。地域社会を含めて看取りを支援する仕組みが広がってほしい」と、研究グループは述べている。
なお、研究グループは今後、同調査で聞き取った「遺体を包む納体袋の使用の経験」や「過酷な現場で働く医療者のモチベーション」等についての分析結果も公表していく予定としている。
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