成長期の仔ラット骨格筋を解析し、母体の低酸素状態が仔ラットに与える影響を検討
東京医科大学は1月27日、妊娠時の間欠的低酸素曝露が、仔ラットの成長期に「有酸素運動能の低下」と「骨格筋での糖・脂質代謝異常、血管密度の減少」を引き起こすことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大病態生理学分野の林由起子主任教授、和田英治講師、法医学分野の前田秀将准教授の研究グループと、東京医科歯科大学 咬合機能矯正学分野の小野卓史教授、細道純准教授、Wirongrong Wongkitikamjorn大学院生(東京医科歯科大学 ―タイ・チュラロンコーン大学ジョイント・ディグリー・プログラム学生)の研究グループとの共同研究によるもの。研究成果は、「Frontiers in Physiology」に掲載されている。
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妊娠時には閉塞性睡眠時無呼吸症が好発し、母体の低酸素状態が胎児に与える影響が懸念されている。このように胎児期から出生後の発達期におけるさまざまな環境への曝露が、成長後の健康や病気の発症リスクに影響を及ぼすというDOHaD学説は、生物学全体の新たな研究課題として着目されている。これまで、妊娠時に間欠的低酸素曝露を経験した仔ラットやマウスは、出生時にはやや低体重で、呼吸状態にも異常が認められること、さらに成獣期には体重の増加、インスリン抵抗性、学習機能障害が起こることが報告されている。一方、成長期の仔への影響については報告がなかった。そこで研究グループは今回、成長期の仔ラット骨格筋を解析することで、その後の疾患リスクへの関与を検討した。
胎児期に間欠的低酸素に曝露された仔ラット、強制運動負荷試験で運動機能低下が判明
研究では、妊娠中の閉塞性睡眠時無呼吸症のモデルとして、妊娠ラットを特殊な装置内で飼育し、間欠的低酸素状態に曝露した。母体の低酸素状態が仔ラットに与える影響を検討するため、仔ラットを出生後成長期(5週齢)まで正常酸素下状態で飼育し、運動機能や骨格筋における変化を確認した。
その結果、胎児期に間欠的低酸素に曝露された仔ラットは、成長期の体重や食餌摂取量、握力に差は認められなかったが、強制運動負荷試験では運動機能の低下が明らかとなった。
低酸素曝露仔ラットの横隔膜で血管密度が有意に減少、オトガイ舌骨筋や咬筋は変化なし
そこで、横隔膜と前脛骨筋の筋線維径と筋線維タイプの割合を評価したが、変化は認められなかった。一方、これらの筋部位では糖代謝・脂質代謝に関与する遺伝子発現が減少し、糖・脂質代謝に関与する骨格筋内アディポネクチン受容体1(Adipor1)の遺伝子発現の低下が認められた。また、血管形成に関与するアディポネクチン受容体2(Adipor2)の遺伝子発現も低下していたことから、骨格筋内毛細血管密度を定量した結果、間欠的低酸素に曝露された仔ラットの横隔膜で血管密度が有意に減少していることを突き止めた。このような変化は同じ骨格筋でも、オトガイ舌骨筋や咬筋では認められなかったことから、胎児期の低酸素曝露による骨格筋への影響には、部位特異性が存在することが考えられるという。
出生後から経時的に骨格筋のエネルギー代謝変化を確認していく予定
今回の研究成果により、妊娠時の低酸素曝露が成長期の仔ラットにおいて、全身の代謝制御を司る骨格筋のエネルギー代謝異常や血管密度の減少を引き起こすことが明らかにされた。このような成長期での変化が、成獣期の肥満や糖尿病といった生活習慣病発症の鍵となる可能性が示唆された。
「今後は、より詳細な検討を行うべく、出生後から成長期、成獣期にかけて経時的に骨格筋のエネルギー代謝変化を確認していく予定だ。また、定期的な運動介入が骨格筋内のエネルギー代謝や毛細血管密度の改善につながるのかを明らかにしていきたいと思う」と、研究グループは述べている。
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