スマホ撮影画像、同じ皮膚病変でも撮影バイアスが判別精度に大きく影響
東北大学は1月26日、スマートフォン等で簡便に撮影された画像から病変部位を認識し、その病変部位を検出し着目させる病変部抽出システムを、深層学習を用いて開発することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科皮膚科学分野の志藤光介医師、同大医学部5年生の柳澤祐太氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Dermatological Science」にオンライン掲載されている。
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近年、皮疹の画像を撮影し、AIで解析をするシステムが世界中で開発されており、病院内でも実用化されている。患者が利用するAIでは、専用の画像撮影機器等を用いずに、スマートフォン等を使って簡便に撮影した画像から画像解析を行なえることが望ましい。しかし、スマートフォン撮影では一定の条件下で撮影されないため、被写体との距離が一定せず、同じ皮膚病変であっても撮影距離によって皮疹の様子が異なるという問題がある。このような撮影バイアスは疾患判別精度に大きく影響することがあり、深層学習を用いた画像解析を行う上で技術的な課題だった。
特に、アトピー性皮膚炎は慢性疾患であり、治療が長期化することで様々な合併症を併発する疾患だ。その中でも早期の対応が必要な細菌感染症やウイルス感染症、早期発見が予後に影響する悪性腫瘍の気づきが遅れると重症化し、生命予後に関わることもある。そのため、アトピー性皮膚炎患者自身が病変の変化に気が付くのを助け、医療機関への受診を促すために気軽に使用できる疾患判定AIツールの普及が望まれている。
病変部位を認識・着目+疾患判定画像診断の2段階で、安定した画像解析に成功
今回、研究グループは、デジタル機器で撮影された病変の部位を認識し、自動的に病変部位を着目して画像をトリミングする病変部抽出システムを開発。病変部抽出システムを利用して病変部位を着目させる解析と、疾患判定画像診断解析の2段階の画像解析を行うことで、さまざまな拡大率で撮影された画像でも安定した深層学習による画像解析を行うことが可能となる。
アトピー性皮膚炎合併症判定AIソフト開発、専門医と同程度に判定可能と確認
この病変部抽出システムを利用して、アトピー性皮膚炎に合併しやすい疾患(感染症並びに悪性腫瘍)を対象に、深層学習モデルを利用したアトピー性皮膚炎合併疾患判定AIソフトウェア(AD-AI)を開発。アトピー性皮膚炎に合併しやすい、単純ヘルペスウイルス感染症、カポジ水痘様発疹症、伝染性膿痂疹、菌状息肉症を対象に解析モデルを検証した。アトピー性皮膚炎への感染症や悪性転化を画像から判定する課題において、研究グループが開発したシステムで自動的にトリミングした画像と皮膚科専門医がトリミングした画像を用いて深層学習モデルを作成し精度を比較。その結果、同程度に疾患が判定できることがわかった。
早期発見・治療介入に期待
今回開発したアトピー性皮膚炎合併疾患判定AIソフトウェア(AD-AI)によって、患者が気になった時にスマートフォンで皮疹を撮影し、AIで感染症の合併が起きていないか判定が出来ると、これまで以上の早期発見と早期治療介入が可能となることが期待される。今後は、このAD-AIをアプリに実装し、広く一般の患者に利用してもらえるように、さらなる精度の向上並びに使用上の規制への対応を目指し開発を進める方針だ、と研究グループは述べている。
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