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「外遊び」が幼児期のデジタル視聴による神経発達への影響を弱める可能性-阪大ほか

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2023年01月26日 AM11:08

幼児のSTを減らすべきか考えるための科学的根拠は不十分だった

大阪大学は1月24日、外遊びが幼児期のデジタル視聴による神経発達への影響を弱める可能性を世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院連合小児発達学研究科博士後期課程の杉山美加大学院生、浜松医科大学子どものこころの発達研究センター兼大阪大学大学院連合小児発達学研究科の土屋賢治特任教授、浜松医科大学子どものこころの発達研究センターの西村倫子特任講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Pediatrics」に掲載されている。

世界保健機関(WHO)は2歳児の1日当たりの平均デジタル視聴時間「(ST)」が1時間を超えることのないよう指針を出しているが、新型コロナウイルス感染が広がる昨今、指針を遵守する家庭は3割程度との米国からの報告もある。

幼児のSTが長いことの一番の懸念点は、神経発達学的予後(神経発達)にある。STが長いと、その後の言語機能、社会機能・対人機能(社会性)、運動機能の発達に望ましくない影響が生じたり、学業成績が低下したりする可能性が指摘されている。一方、STの影響を否定する研究もある。加えて、ST問題の理解と対応において「幼児期の長いSTが、子どものどんな機能にどの程度影響するのか確かでない」「幼児期のSTを減らす保健指導・介入がこれまでも行われてきたが、成功していない」という未解決の課題が残されていた。そのため、幼児のSTを減らすべきか、もし減らすべきなのであればなぜなのか、そして、どのように望ましくない影響を減らせば良いか、それらを考えるための科学的根拠は十分に集まっていなかった。

STが神経発達に望ましくない影響を与えるとしても、外遊びを増やすことで影響を減らせるのか?

研究グループは、2007年11月に浜松医科大学で大規模疫学研究「浜松母と子の出生コホート研究(HBC Study)」の運営を開始。参加者は妊娠中の女性と生まれてくる子どもだ。2007年12月~2012年3月の間に生まれた1,258人の子どもたちの成長(身体発達、神経発達)を縦断的に追跡し15年目になる。同研究グループは「2歳でST 1時間超の子どもは、4歳の神経発達学的予後スコアが低い」「2歳でST 1時間超の子どもが、2~4歳で十分に外遊びをすると、4歳の神経発達学的予後スコアが通常範囲に収まる」という仮説を立てた。

外遊びが神経発達に良い影響を与えることが知られている。しかし、STが神経発達に望ましくない影響を与えるのか、STが増えると外遊びが減ることを通じて神経発達に影響するのかは不明だ。もし後者が正しければ、仮にSTが神経発達に望ましくない影響を与えるとしても、外遊びを増やすことで望ましくない影響を減らせると考えられる。

STで低下する日常生活機能、2~3歳に十分な外遊びをすることで緩和される可能性

研究グループはこの仮説検証のため、HBC Studyに参加した子どものうち885人を対象に、4歳の神経発達学的予後としての「コミュニケーション機能」「日常生活機能」「社会機能」の得点、2歳での「1日あたりのST」、2歳8か月での「1週当たりの外遊び日数」のデータを利用して、3つの変数の関連を媒介分析という手法を用いて解析した。なお、STと神経発達学的予後との関連を説明するかもしれない第3の変数(交絡因子)として、「母親の教育歴」「父親の教育歴」「1歳6か月における発達障がいの傾向」の有無を考慮した。

解析の結果、「2歳のSTが長い(1日1時間超)と、4歳のコミュニケーション機能が少し下がる(0.2SD)」「この低下は、2歳8か月の外遊びを増やしても(1週6日以上)減らない」「2歳のSTが長い(1日1時間超)と、4歳の日常生活機能が少し下がる(0.1SD)」「この低下は、2歳8か月の外遊びを増やすと(1週6日以上)、大幅に減る」「2歳のSTが長くても、4歳の社会機能は低下しない」ということが判明した。

以上より、2歳のSTは、4歳のコミュニケーション機能と日常生活機能を低下させるが、その影響の程度は限定的であり、特に日常生活機能への影響は、2~3歳に十分な外遊びをすることで緩和される可能性があること、また、2歳のSTは4歳の社会機能に明確な影響を与えていないことが明らかになった。

保護者にSTのコントロールを委ねる以外の方策を探ることが必要

日本では子どものSTのコントロールについて保護者向け啓発ガイドを作成したが、デジタル視聴のメリット・デメリットが提示されていないうえ、STに関する量的な目安もないことから、STのコントロールは育児を担う保護者の裁量に任されている。しかし、ガイドラインの存在が知られていても守られないことがわかっており、保護者にSTのコントロールを委ねる以外の方策を探る必要がある。

また、今回研究に参加した子どもたちのSTの平均は2.6時間だったという。育児に関わる多くの保護者が「手が離せないときに子どもにデジタルデバイスの利用をさせる」ことを経験しており、うしろめたさを感じつつも減らせないことが指摘されている。同研究では「外遊びや外出でSTの望ましくない効果を減らせる」ことが指摘されており、これがSTを減らすことの代替法と考えられる。しかし、コロナ禍以降、世界中で子どもたちの外遊びの時間が減っていることがわかっており、外遊びを増やすこと以外にも、デジタル視聴のメリットを最大化するなど、STの望ましくない効果を減らすための手段を積極的に開発する必要がある。

デジタル機器を利用する子育てに対して十分な根拠のないまま、それを否定的にみる空気がある。「スマホ育児」という言葉の定着によって、否定的な空気は両親、とりわけ母親の属性や行動様式に結び付けられがちだ。「今回の結果は、子どものSTを短くする必要があり、そのためには両親がスマホ育児をやめるべきという論調を見直すのに十分なデータだ」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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