後遺症など課題のある術後補助化学療法、従来は病理検査で推定の再発リスクに応じて実施
国立がん研究センターは1月24日、外科治療が行われる大腸がん患者を対象に、血中循環腫瘍DNAを検査する技術(リキッドバイオプシー)を用いて、術前および術後に再発リスクをモニタリングするレジストリ研究(GALAXY試験)を実施したと発表した。この研究は、同センター東病院の吉野孝之副院長、九州大学病院消化管外科の沖英次准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Medicine」に掲載されている。
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日本で1年間に新たに大腸がんと診断される人数は、2019年では男性約9万人、女性約7万人で、臓器別にみると男女ともに2番目に多いがんである。切除可能大腸がんにおける根治的治療は手術だが、これまでは主に病理組織検査の結果から推定される再発リスクに応じて、術後補助化学療法が行われてきた。しかし、患者によって薬の効果や副作用に違いがあり、特に末梢神経障害(手足のしびれ)が長期間にわたり後遺症として残ってしまうことが問題だった。
そこで、研究グループは、外科治療が行われる大腸がん患者に対し、リキッドバイオプシーによるがん個別化医療の実現を目指すプロジェクト「CIRCULATE-Japan(サーキュレートジャパン)」において、より適切な医療を提供することを目的に今回の研究を立案・実施した。
定期的に血液を採取し、患者個別の遺伝子パネルでがん遺伝子異常の有無を調査
今回の研究は外科治療が行われる大腸がん患者を対象に、国内外約150施設(台湾1施設を含む)の協力を得て行われた世界最大規模の前向き研究である。米国Natera社が開発した高感度遺伝子解析技術「Signatera(シグナテラ)」アッセイを用いて、血中循環腫瘍DNAの測定を行った。生検あるいは手術で採取された腫瘍組織を用いた全エクソーム解析の結果をもとに、16遺伝子を選択して患者オリジナルの遺伝子パネルを作製した。術前および術後4週時点から定期的に血液を採取し、患者毎のオリジナル遺伝子パネル検査を用いて、血液中のがん遺伝子異常の有無を調べた。2020年6月から2021年4月の間に登録された1,563例のうち、十分な臨床情報と血中循環腫瘍DNAの結果が揃っている1,039例を対象に解析を行った。
術後4週で血中ctDNA陰性の場合、術後補助化学療法は無病生存割合に有意な影響なし
解析の結果、術後4週時点で血中循環腫瘍DNA陽性は、陰性と比較して、再発リスクが高いことがわかった。18か月時点での無病生存割合は血中循環腫瘍DNA陽性では38.4%、陰性では90.5%だった(ハザード比:10.82、P<0.0001)。さらに、ステージ2・3の患者において、術後4週時点で血中循環腫瘍DNA陽性の場合、術後補助化学療法を受けなかった患者では18か月時点での無病生存割合が22.0%であったのに対し、術後補助化学療法を受けた患者では61.6%と再発リスクが低下することがわかった(ハザード比:6.59、P<0.0001)。
一方、術後4週時点で血中循環腫瘍DNA陰性では、術後補助化学療法を受けなかった患者は18か月時点での無病生存割合が91.5%、術後補助化学療法を受けた患者は94.9%と統計学的な有意差は認められなかった(ハザード比:1.71、P=0.16)。
以上の結果から、術後4週時点における血中循環腫瘍DNAの陽性/陰性が再発リスクと大きく関連していること、さらに術後4週時点で血中循環腫瘍DNA陽性では、術後補助化学療法を行うことで再発リスクを低下させることができる可能性が示された。
再発リスクに応じた術後補助化学療法の個別化につながる可能性
術前・術後に血中循環腫瘍DNAを測定することで、大腸がん患者の再発リスクに応じた術後補助化学療法の個別化につながることが期待されるという。一方、術後4週時点で血中循環腫瘍DNA陰性である場合術後補助化学療法が不要であるかは、今回の研究結果のみでは判断することはできなかった。本研究において術後補助化学療法を行うかどうかは担当医によって判断されたため、血中循環腫瘍DNA以外の臨床病理学的な背景等が術後後補助化学療法を受けた患者と受けなかった患者では異なる可能性があるからである。
「本研究結果を検証するために、血中循環腫瘍DNA陽性の患者を対象としたランダム化第3相試験(ALTAIR試験、JapicCTI-2053)、術後4週時点での血中循環腫瘍DNA陰性の患者さんを対象としたランダム化第3相試験(VEGA試験、jRCT1031200006)が進行中であり、その結果が期待される。」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース