FGF/FGFR遺伝子異常に対するより有効な治療開発が望まれている
東京医科歯科大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校(USCD)は12月1日、FGF/FGFR遺伝子異常と共変異を有するがんに対して、分子標的薬による併用療法の有効性を発表した。この研究は、東京医科歯科大学の上原悠治大学院生、池田貞勝准教授、UCSDの加藤秀明准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「ESMO open」オンライン版に掲載されている。
画像提供:上原悠治氏
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近年、相次ぐFGFR阻害薬の承認に伴って、FGF/FGFR遺伝子異常は注目されている。 米国のFDA(米国食品医薬品局)では、FGFR2融合遺伝子陽性胆道がんに対するFGFR阻害薬(ペミガチニブ、フチバチニブ、infigratinib)、FGFR3/FGFR2融合遺伝子変異陽性の尿路上皮がんに対するFGFR阻害薬(erdafitinib)、FGFR1融合遺伝子陽性に対する骨髄性/リンパ性腫瘍に対するFGFR阻害薬(ペミガチニブ)が承認されている。日本ではFGFR2融合遺伝子陽性胆道がんに対して、ペミガチニブが承認されている。
FGF/FGFR遺伝子異常は肺がん、胃がん、乳がん、頭頸部がん、子宮体がん、肉腫などさまざまながん腫で認め、標的分子としてさまざまながん腫で治療開発が進んできた。しかし、これらの臨床試験では、必ずしも良好な臨床的効果が得られてこなかった。研究グループは、FGF/FGFR遺伝子異常に伴うさまざまな共変異が薬剤耐性につながっており、FGFR遺伝子異常のみを標的にすることは十分な臨床的効果を得られにくいという仮設を立てた。研究グループは、FGFR遺伝子異常に伴う共変異と予後の関連を明らかにし、FGFR遺伝子と共変異の両方を標的とした分子標的薬併用療法の可能性を探索した。
FGF/FGFR異常のがんは重要なシグナル伝達経路に多くの共変異を有し、共変異は全生存期間と関連
研究グループは、cBioPortalのデータベースにあるがん患者7,074人を解析した。FGF/FGFR遺伝子変異を有するがん患者(1,074人)と有さない患者(6,500人)を比較し、前者の全生存期間が短かった。FGF/FGFR遺伝子異常を有するがんの94%は、異常な共変異を有していた。共変異はTP53、受容体型チロシンキナーゼ/MAPK、細胞周期、PI3Kといった重要なシグナル伝達経路で生じていた。頻度順にTP53(70%)、受容体型チロシンキナーゼ/MAPK(65%)、細胞周期(58%)、PI3K(55%)経路であった。TP53、細胞周期に関連する共変異を伴うFGF/FGFR遺伝子変異陽性がんは、これらの共変異を伴わないFGF/FGFR遺伝子変異陽性がんと比較して、全生存期間の短縮を認めた。
FGF/FGFR遺伝子異常と共変異を有するがん、分子標的薬併用療法の開発に期待
次に研究グループは、UCSDでMolecular Tumor Board (MTB)が行われたFGF/FGFR遺伝子異常を有し、FGFR阻害薬が投与されたがん患者16人を解析した。これらの16人では、TP53(71%)、細胞周期(53%)、受容体型チロシンキナーゼ/MAPK(35%)、PI3K(35%)経路に関する共変異を認めた。一部の患者には、これらの共変異に対して、MTBで議論された分子標的薬併用療法が行われた。治療効果は、16例中4例で部分奏効(PR)(9、12、22、52か月)、2例で6か月以上の安定(SD)(13、15か月)であり、臨床的有用率は38%(6/16人)であった。FGF/FGFR遺伝子異常 およびサイクリン遺伝子異常を有するがん患者の50%(3/6人)で、レンバチニブ(FGFR阻害薬)とパルボシクリブ(CDK4/6阻害剤)併用療法の奏効を認めた(無増悪生存期間:卵巣がん9か月、胆道がん12か月、骨肉腫52か月)。パルボシクリブとレンバチニブ併用療法の忍容性は良好であった。
「今回の研究は、FGF/FGFR遺伝子異常とその共変異に対する分子標的薬併用療法(combination approach)の可能性を示した。従来は一つの標的遺伝子変異に対する単剤分子標的薬が治療開発の中心として進んできたが、同様にFGF/FGFR以外の遺伝子異常を有するがんにおいても、患者個別の遺伝子異常を考慮した分子標的薬併用療法の治療開発が期待される」と、研究グループは述べている。