パンデミック下のプライマリ・ケア機能と入院リスクとの関連、これまで国内外での検証なし
東京慈恵会医科大学は1月24日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大後のプライマリ・ケアに関する全国的な縦断調査を実施し、かかりつけ医機能はコロナ禍での入院リスク低下と関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大総合医科学研究センター臨床疫学研究部の青木拓也講師、松島雅人教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Family Medicine」に掲載されている。
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プライマリ・ケアは、住民のあらゆる健康問題に包括的かつ継続的に対応し、多職種や高次医療機関、地域住民との協調を重視するヘルスケアサービスだ。COVID-19パンデミック以前の海外の研究において、質の高いプライマリ・ケアが入院リスクの低下と関連することが報告されている。日本でも、COVID-19パンデミックをきっかけに、プライマリ・ケアを担う「かかりつけ医」の役割に大きな注目が集まっており、かかりつけ医機能の強化が、医療制度議論における重要な論点になっている。しかし、パンデミック下におけるプライマリ・ケア機能(日本におけるかかりつけ医機能)と入院リスクとの関連については、これまで国内外での検証が行われていなかった。
パンデミック下では、感染症による健康問題だけでなく、通常の慢性疾患管理や予防医療の提供などにも支障が生じることを鑑み、同研究は、COVID-19パンデミック下において、かかりつけ医機能と入院リスクとの関連を検証することを目的とした。
パンデミック下に実施のプライマリ・ケアに関する全国前向きコホートデータを解析
今回の研究は、COVID-19パンデミック下の2021年5月〜2022年4月に実施されたプライマリ・ケアに関する全国前向きコホート研究(National Usual Source of Care Survey:NUCS)のデータを用いて実施。NUCSは、代表性の高い日本人一般住民を対象とした郵送法による調査研究だ。民間調査会社が保有する約7万人の一般住民集団パネルから、年齢、性別、居住地域による層化無作為抽出法を用いて、40〜75歳の対象者を選定した。
主要評価項目に、追跡期間の12か月間における入院の発生を設定。かかりつけ医機能は、Japanese version of Primary Care Assessment Tool(JPCAT)短縮版を用いて、ベースライン時点で評価した。JPCATは、米国Johns Hopkins大学が開発し、国際的に広く使用されているPrimary Care Assessment Toolの日本版であり、その妥当性・信頼性が検証されたプライマリ・ケア機能評価ツールだ。JPCATの下位尺度は、近接性、継続性、協調性、包括性、地域志向性といったプライマリ・ケアの特徴的な機能であり、日本専門医機構の総合診療専門医のコンピテンシーなどと重なる。
統計解析では、住民をかかりつけ医あり群・なし群、かかりつけ医あり群をさらに四分位群(低機能群、低中機能群、中高機能群、高機能群)に分けて、入院リスクを比較。比較を行う際には、多変量解析を用いて、年齢、性別、教育歴、慢性疾患数、健康関連QOLといった住民の属性の影響を統計学的に調整した。
かかりつけ医高機能群で「入院リスク低下」
追跡調査を完了した1,161人を解析対象者とした(追跡率92.0%)。解析対象者のうち、723人(62.3%)がかかりつけ医を有しており、追跡期間中に87人(7.5%)で入院が発生。入院した者のうち、5人(5.7%)はCOVID-19による入院だった。
住民の属性の影響を統計学的に調整した結果、かかりつけ医あり群の中でも、かかりつけ医機能が高い(JPCAT総合得点が高い)群ほど、コロナ禍での入院リスクが低下することが明らかになった(かかりつけ医なし群と比較した、かかりつけ医あり・高機能群の調整オッズ比:0.37,95%信頼区間:0.16–0.83)。高機能群における入院リスク低下は、JPCATの総合得点だけでなく、下位尺度得点(近接性、継続性、協調性、包括性、地域志向性)を用いた解析でも、全てにおいて認められた。
入院以外のさまざまなアウトカムについても検討予定
同研究の成果は、かかりつけ医機能の強化やプライマリ・ケア専門医(総合診療専門医など)の育成をはじめ、プライマリ・ケアの強化を政策的に推進する上での基礎資料となるものだという。今回の研究成果をもとに、入院以外のさまざまなアウトカムについても検討することによって、COVID-19パンデミック後における、かかりつけ医機能やプライマリ・ケアの価値に関するエビデンスを今後もさらに構築していく予定だ、と研究グループは述べている。
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・東京慈恵会医科大学 プレスリリース