将来的に肝移植の最大要因になると予想されるNASH、治療薬は未確立
京都医療センターは1月20日、高脂肪食負荷肥満モデルマウスやNASHモデルマウスであるメラノコルチン4型受容体欠損マウスなどを用い、植物に含まれる機能性分子・タキシフォリンが、肥満および重大な肥満合併症である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対する予防・治療効果があること、さらにNASHから肝がんへの進展を予防できる可能性があることを、世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同センター臨床研究センターの浅原哲子研究部長、加藤久詞研究員、名古屋大学環境医学研究所の菅波孝祥教授、田中都講師、東京医科歯科大学先端血液検査学分野の西尾美和子准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrients」にオンライン掲載されている。
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近年、日本においても肥満の増加に伴い、非アルコール性脂肪性肝疾患・NAFLDの有病者が、健診の約3割、2,500万人と急増しており、最新の報告ではその約25%が非アルコール性脂肪肝炎・NASHに進行し、その約25%が肝硬変に、さらに25%が10年で肝がんを発症すると推定されている。ウイルス性肝炎が治療できる時代となった現在、近い将来、NASHが肝移植の最大要因になると予想されており、NASHの予防・治療対策が喫緊の課題である。しかし、現在NASHに対する標準的治療は一般療法としての食事・運動療法による生活習慣改善であり、NASHの治療を主目的とする確立された治療薬はない。
ダフリアカラマツや野草アザミに含まれるポリフェノール「タキシフォリン」に着目
タキシフォリンは、シベリアに自生するダフリアカラマツや野草アザミなどの植物に含まれるポリフェノールの一種で、ヒトが摂取する上での安全性も報告されている。研究グループは、これまで、認知症モデルとして脳アミロイド血管症モデルマウスを用い、タキシフォリンを摂取することにより、脳内血流量の改善や炎症性物質、活性酸素の抑制に伴い脳内アミロイドβ量が減少し、さらに認知機能低下が抑制されることを、世界に先駆けて報告してきた。
高脂肪食負荷肥満マウス、タキシフォリン摂取で抗肥満効果や脂肪肝の抑制効果を確認
今回、研究グループは、高脂肪食負荷肥満モデルマウスやNASHモデルマウスであるメラノコルチン4型受容体欠損(Mc4r-KO)マウスなどを用い、タキシフォリンの肥満・NASH・肝がんの予防・治療に及ぼす効果を詳細に検討した。その結果、著明な体重・体脂肪量の減少や糖・脂質代謝の改善など、抗肥満効果が認められ、さらに、肝臓内の脂肪量、炎症指標、線維化指標の改善など、脂肪肝の抑制効果も認められた。また、タキシフォリン摂取群では、直腸温の顕著な上昇や褐色脂肪組織(BAT)における熱産生の亢進を認め、その際、エネルギー代謝亢進作用を有するホルモン、FGF-21の増加が関与していることを明らかにした。
さらに、ヒトiPS細胞から作製した褐色脂肪細胞を用いた検討においても、タキシフォリン投与によって褐色脂肪細胞の活性化やFGF21の顕著な発現増加が認められた。研究グループは以上の知見により、特許出願している。
NASHの予防・治療効果に加え肝がんへの進展抑制効果も
また、研究グループが確立したMc4r-KOマウスを用いたNASHおよびNASH関連肝がんモデルマウスを対象にタキシフォリンを摂取させた結果、NAFLD activity score の改善など、NASH病態の進展における予防・治療効果を認めた。さらに、肝がんへの進展を検討したところ、タキシフォリン摂取によって肝腫瘍数および肝がん様病変面積の著明な減少が認められ、タキシフォリンがNASHから肝がんへの進展を抑制する効果があることを初めて見出した。
以上の知見から、タキシフォリンは全身への多面的作用を発揮することにより、肥満・NASHに対する予防・治療効果、さらにNASHから肝がんへの進展を抑制すると考えられるという。
医薬品としての開発を目指し、臨床研究を準備
今回の研究成果は、肥満・NASH・肝がんの新規予防・治療薬としてのタキシフォリンの可能性を示すもので、特に肥満・NASH・肝がんの効果的予防法や新規治療戦略の開発に多大な貢献が期待される。現在、ヒトへ投与できる医薬品としての開発を目指し、臨床研究の準備にも取り組んでいる。「タキシフォリンのヒトでの効果・臨床的意義を解明することで、肥満→NASH→肝がんに対する効果的な予防法・治療戦略が提唱可能となり、健康寿命延伸や医療費抑制など医療と福祉への多大な貢献が期待できると考えられる」と、研究グループは述べている。
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