家族介護者のセルフメディケーションの実態を調査
筑波大学は1月23日、家族介護者に対するアンケート調査で、被介護者(患者)に関わる医療や介護のさまざまな専門職から、介護者自身が受けるケアの経験とセルフメディケーションの実態を評価し、その関連を分析した結果、約3分の1の家族介護者がセルフメディケーションを行っており、さまざまな専門職からのケアを受けた経験をより高く評価している家族介護者はセルフメディケーションを行わない傾向にあることが示唆されたと発表した。この研究は、同大医学医療系の舛本祥一講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Research in Social and Administrative Pharmacy」にオンライン掲載されている。
高齢化による家族介護者の増加に伴い、家族介護者自身の健康状態が介護の継続に影響を与えることがわかっているが、これまでの報告では家族介護者は介護に追われる中で、自らの健康管理をおろそかにしがちとされている。多くの介護者は患者の介護に対してストレスや負担を経験しており、介護負担は身体的、精神的、心理社会的にも大きな影響を及ぼす。また、介護者自身も高齢化し、慢性の病気を抱えながら介護しているケースも増加している。
一方、セルフメディケーションは、日常の健康問題を管理する上で、一つの有効な手段だが、医療従事者への相談を経ずに利用できることから、薬剤の誤った使用や乱用、予期しない有害な事象や薬剤同士の相互作用のリスクもある。しかし、セルフメディケーションに関するこれまでの研究は患者自身の健康問題に関する調査が多く、家族介護者についての実態はわかっていない。また、家族介護者のセルフメディケーション利用に対しては、患者に対してケアを提供している医療や介護の専門職の認識も不十分と考えられる。
在宅で療養する慢性の病気を患う患者は、医師、看護師、リハビリテーション職、薬剤師やケアマネージャーなど複数の専門職から治療・ケア・支援などを受けており、家族介護者も患者の介護を通して、しばしばそれらの専門職とコミュニケーションを取っている。このことから研究グループは「家族介護者のセルフメディケーション利用は、さまざまな専門職から提供されるケアの経験と関連するのではないか」との仮説を立てた。医療や介護の専門職は患者の健康問題のみに目が行きがちだが、介護者自身の健康問題や、それに対するセルフメディケーションの実態を知ることは、介護者の支援を考える上で重要だと考えられる。そこで研究グループは今回、慢性の病気を介護する家族介護者に対して、介護者自身が医療や介護の専門職から受けたケアの経験、セルフメディケーションの実態と、その関連性などを評価した。
茨城県内750人を解析、家族介護者の過去2週間以内のセルフメディケーション利用34.4%
研究では、茨城県内の3自治体に居住する、慢性疾患で自宅療養を行う患者の家族介護者を対象に、2020年11~12月にかけて無記名の郵送アンケート調査を実施した。同アンケートでは「J-IEXPAC CAREGIVERS」という尺度を用いて、介護者自身が医療や介護の専門職から受けたケアの経験と、セルフメディケーションの実態を調査した。介護者のセルフメディケーションについては、過去14日間にOTC医薬品、サプリメント、健康食品などを使用したか否かを尋ねた。
その結果、887人から回答があり、欠損データがあった対象者などを除いた750人のデータを解析。回答者の平均年齢は61.4歳、性別は女性が74.3%であり、家族介護者の過去2週間以内のセルフメディケーションの利用は、全体の34.4%という結果だった。また、年齢・性別・学歴・収入・介護者自身の主観的健康感といった要因の影響を取り除いた解析を行ったところ、J-IEXPAC CAREGIVERSの上昇(専門職から提供される支援、気遣い、助言といった患者や介護者へのケアをより良好と感じていること)は、介護者がセルフメディケーションを利用しないことと関連があるという結果だったという。
「専門職からより良いケアを受けている」とした家族介護者はセルフメディケーションを行わない傾向
今回の調査の結果から、家族介護者の3分の1がセルフメディケーションを行っていることが判明した。また、さまざまな専門職からより良いケアを受けていると評価している家族介護者は、セルフメディケーションを行わない傾向にあることが示唆された。その背景として、家族介護者が患者のケアに関与する専門職と良い関係を築けていると感じられる場合は、介護者自身のことについて助言を求めたり、医療機関を受診しやすいのではないかと推察された。
介護者が適切なセルフメディケーションを行うために必要な支援の検討を
今回の研究は「家族介護者のセルフメディケーションの実態」について報告された世界初の研究であり、そこに患者のケアにあたる専門職との関わりが影響を与えていることを示唆する貴重な知見と言える。「患者のケアにあたる専門職が、家族介護者のことまで気にしなければいけないのか」という議論もあるが、少なくとも介護者の健康状態を意識し、セルフメディケーションを含めた健康行動について適切な助言を行うことは、医療・介護従事者の役割だと考えられる。
「コロナ禍においては、セルフメディケーションの役割も大きくなっており、今後、介護者が適切なセルフメディケーションを行うために必要な支援について、検討する必要がある」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL