日本の腎移植後患者、ワクチン2回接種後の抗体獲得率は、健常者・海外患者より「低」
名古屋大学は1月20日、腎移植後の患者における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチン2回接種後から3回接種後の抗体価の変化を調査した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科腎臓内科学および名古屋大学医学部附属病院腎臓内科の藤枝久美子医師、田中章仁病院助教、斎藤尚二病院講師、古橋和拡病院講師、安田宜成特任准教授、丸山彰一教授、泌尿器科学の藤田高史前講師(現在、県立多治見病院泌尿器科所属)、加藤真史准教授、同大医学部附属病院検査部の菊地良介前臨床検査技師(現在、岐阜大学医学部附属病院検査部に所属)、看護部の高井奈美看護師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Vaccines」に掲載されている。
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免疫抑制治療を受けている患者、特に腎移植を受けた患者では腎臓に拒絶反応が起きないように免疫抑制剤を内服している。免疫抑制剤を内服している患者は、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種後の抗体獲得率が低くなることが海外から報告されている。しかし、生体腎移植/献腎移植の割合や、ABO不適合腎移植の割合、免疫抑制剤など、移植を取り巻く状況は、日本と諸外国では異なる。具体的には、日本ではドナーが少ないため生体腎移植の割合が高く、ABO血液型不適合腎移植が積極的に行われている。血液型の不適合を乗り越えるために、周術期の免疫抑制の強度が強くなることもある。加えて、抗体の獲得率に民族差がある可能性も考えられる。
研究グループの前回の報告では、日本の腎移植後の患者のSARS-CoV-2 mRNAワクチン2回接種後3週間〜3か月の抗体獲得率は、健常者や海外の腎移植後の患者と比較して低い値だった。このような背景から、日本と諸外国との抗体獲得率の違いや、抗体価の推移、ワクチンの追加接種の必要性について明らかにする必要がある。
ワクチン3回接種の移植レシピエント62人対象、抗体価の変化を調査
今回の研究では、SARS-CoV-2 mRNAワクチンを3回接種した62人の移植レシピエント(男性40人、女性22人)について調査した。ワクチン3回目接種時の年齢中央値は54歳(四分位範囲[IQR]、49-67歳)、移植時の年齢中央値は50歳(IQR、38-58歳)。移植からワクチン接種までの期間の中央値は84か月(IQR、34-154か月)だった。BMIの中央値は22.9(IQR、21.4-26.2)、eGFRの中央値は42.8mL/min/1.73m2(IQR、34.1-51.4mL/min/1.73m2)。
抗体陽性、ワクチン2回接種後45%→3回接種後71%に増
調査の結果、ワクチン2回接種後3週間〜3か月で抗体陽性と判定されたのは45%で、ワクチン2回接種後5〜6か月で抗体陽性と判定されたのは50%だった。ワクチン2回接種5〜6か月後に抗体が陰転化した者は1名、陽転化した者は4名存在。また、ワクチン3回目接種後3週間〜3か月で抗体陽性と判定されたのは71%と増加した。
ファイザー社製のワクチンのみを接種した患者、モデルナ社製のワクチンのみを接種した患者、ファイザー社製とモデルナ社製の両方を接種した患者を比較。その結果、接種したワクチンの種類や組み合わせによる抗体獲得率の違いは認められなかった。
BMIとeGFR、抗体取得率と有意な相関が示唆
次に、統計学的な手法を用いて抗体獲得に関連する因子を検討。その結果、BMIとeGFRがさまざまな要因を統計学的に調整しても抗体取得率と有意な相関があることが示唆された。
今後、ワクチン追加接種による抗体価変化などを調査
今回の研究により、日本の腎移植後の患者において、SARS-CoV-2ワクチン3回接種により抗体獲得率が上昇することが示された。4回目以降の接種も進んでいるため、今後はワクチンの追加接種による抗体価の変化や時間が経つにつれて抗体の力価がどう変化していくのかを調べる必要があると考えられる、と研究グループは述べている。
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