遺伝子変異で悪性化形質を獲得したがん細胞は、永続的にその形質を維持し続けるのか
金沢大学は1月19日、腸がん由来オルガノイドのモデル研究により、悪性化に逆行する細胞集団が、予想以上の頻度で出現していることを発見したと発表した。この研究は、同大ナノ生命科学研究所/がん進展制御研究所の中山瑞穂准教授、大島正伸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」にオンライン掲載されている。
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ドライバー遺伝子変異により、生存や増殖に有利な形質を獲得した腫瘍細胞が、がん組織内で選択的に増殖することで、がんは段階的に悪性化すると考えられている。この概念はダーウィンの進化論と共通する機構として説明される。しかし、複数の遺伝子変異を蓄積して悪性化形質を獲得したがん細胞は、永続的に悪性化形質を維持しているのかなど、その運命については十分に解析されていなかった。
腸管腫瘍オルガノイドから樹立したサブクローン細胞株、3割で転移能が消失
がん研究に広く使われる株化がん細胞は、均一な悪性化細胞が選択されているため、何度継代しても悪性化形質が維持されている。一方で、オルガノイド培養したがん細胞集団では悪性度に関する多様性が維持されており、個々の細胞の悪性化形質を追跡することが可能と考えた。
研究グループは、大腸がん発生と悪性化に重要な4種類のドライバー遺伝子(Apc、Kras、Tgfbr2、Trp53)に変異を導入したマウスモデルの腸管腫瘍からオルガノイドを樹立した。樹立したオルガノイドのAKTP細胞をマウス脾臓に移植すると高頻度に肝転移巣を形成することが、以前の研究で明らかにされている。そこで、AKTP細胞を酵素処理により単一細胞とし、それぞれの細胞を増殖させてサブクローン細胞株を樹立し、脾臓移植実験を実施した結果、約30%のサブクローンで転移能が失われていることが明らかになった。転移能を消失したがん細胞では、4種類のドライバー遺伝子変異が確認されたため、遺伝子変異により獲得した悪性化形質には、それを維持するために他のメカニズムが存在することが考えられた。
転移能を失った細胞は顕著に増殖が抑制され、転移性を再度獲得することはない
通常の細胞培養ディッシュ上では、転移能を失ったがん細胞も、転移性を維持したがん細胞と同様に増殖したが、より生体内に近いコラーゲンゲル上の培養では、転移能を失った細胞の顕著な増殖抑制が認められ、継代培養の過程で細胞集団から排除された。この結果は、体内のがん組織でも、悪性化形質を失った細胞が出現しては、ネガティブ選択機構により排除されている可能性を示している。
さらに、転移能を失ったサブクローンは継代培養を続けても、転移性を再度獲得することはないが、転移性を維持したサブクローンでは、継代培養により転移性を消失する現象が認められ、転移性消失が一方向性に起こる現象と考えられた。
さらに、転移性を消失したサブクローンでは、幹細胞性を示すLgr5などの遺伝子発現が顕著に低下しており、がん細胞の未分化性が維持されないため、生体内の増殖や転移巣形成能力が低下したと考えられた。この知見は、ダーウィン進化で説明されるがんの悪性化モデルに、ネガティブ選択の概念を導入し、がん進化の概念に重要な貢献が期待される。
遺伝子変異以外に、転移性を維持する重要なメカニズムが存在する可能性を示唆
研究グループは、「本研究成果から、転移性などの悪性化形質は、原因となる遺伝子変異以外に、それを維持する重要なメカニズムが存在することが考えられ、さらに、その分子機構を解明することにより、がん転移に対する新規予防・治療薬の開発戦略に大きな貢献が期待される」と、述べている。
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