■北里大・成川氏ら調査
医薬品の副作用と疑われる症例のうち、添付文書の使用上の注意から予測できない海外における重篤な副作用を報告する「医薬品未知・重篤副作用報告(外国)」について、先発品メーカーの約8割は医薬品の安全対策に「寄与していない」と回答したことが、北里大学薬学部の成川衛教授らが実施した調査結果で明らかになった。海外の未知・重篤副作用報告件数は、国内報告の約10倍に達する一方、海外症例報告が医薬品の添付文書改訂に直接結びつくケースは極めて稀なため、企業にとっては安全対策業務にかける労力の増大に見合った価値を実感できていないようだ。
調査は、次期医薬品医療機器等法の改正を見据え、製造販売後安全対策に関する問題点を抽出する目的で実施したもの。日本製薬工業協会や米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)、日本ジェネリック製薬協会の会員企業のうち約100社が回答した。
薬機法に基づき、国内での未知・重篤副作用と既知・重篤副作用、海外での未知・重篤副作用については、副作用と疑われる症例を知った後、15日または30日以内に医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告するルールとなっている。調査によると、先発品メーカーで海外での未知・重篤副作用報告が年約2万件と増加傾向にあった。特に外資系企業やグローバル展開している国内企業で報告件数が多かった。
海外での未知・重篤副作用報告が国内の安全対策に寄与したかを「大いに寄与する」「寄与することがある」「ほとんど寄与しない」「全く寄与しない」「取り扱った経験があまりない」の五つの選択肢で聞いたところ、「ほとんど寄与しない」「全く寄与しない」の回答が約8割を占めた。
企業が海外の未知・重篤副作用報告のあり方に不満を感じている背景には、リソースをかけて報告しても国内での添付文書改訂につながるケースが極めて稀であるためだ。
報告した海外症例をもとに、外国に先行して国内の添付文書改訂を行った事例はほとんどなかった。
外国での未知・重篤副作用報告は米国FDA、欧州EMAも義務づけており、日本だけ報告義務を外すのは現実的に難しいと見られるが、自由回答では「企業が収集した外国の未知・重篤副作用報告がPMDAでどのように活用されているか知りたい」との意見も見られた。
また、成分ベースでの報告となっているため、「各社で重複している報告も多く、剤形や投与経路が全く異なる製剤の報告も混じっている」と非効率な点を指摘する声もあった。
一方で、添付文書改訂に結びつきやすい「国内の未知・重篤副作用報告」や、発売中の医薬品について外国当局が発信する緊急安全性情報などをPMDAに報告する「外国措置報告」は、「安全対策に寄与している」と多くの企業が肯定的に捉えていた。
定期報告が義務づけられている国内の未知・非重篤副作用については、先発品メーカーの半数弱が「安全対策に寄与していない」と厳しく評価。
再審査期間を満了し、販売後長期間経過している薬剤などでは報告を行う意義が希薄であることや、追加情報を収集するため医師に詳細調査を実施しようとしても重篤な副作用報告に比べ協力が得られにくいことなどを挙げた。
感染症定期報告についても、タイムリーさに欠ける点や各社からの報告情報の重複、該当する事象がない場合にも報告書を作成する必要性への疑問などが呈された。
成川氏は、副作用報告制度のあり方について「新薬の世界同時開発が増加し、市販後に日本人データを収集する必要性が増す中、安全対策は強化していかなくてはいけない。企業が安全対策にかけている資源の再配分がヒントになるのではないか」との見方を示し、「今回の調査を分析し、どのような対応策を取るのが良いか来年度にかけて方向性を示したい」と話している。